【3】人が注目しない数字を見る
今の姿だけ見ていても、将来性がわからないのは企業も人も同じ。まだ数字に表れてこない「ポテンシャル」というものをつかまえる必要がある。ポテンシャルを測るには、他の人が注目しない数字に着目してみる。
富士フイルムは08年に富山化学工業を株式公開買い付けによって連結子会社化するが、それがまさにポテンシャル買いだった。同社が21世紀を通じて2兆円から3兆円の売り上げを維持し、リーディングカンパニーとして技術的にいい製品を出し続けるためには、薬の分野に進出するのは「マスト条件」だったが、当時の富山化学工業は大赤字の会社だった。
古森会長の決断を支えたのは2つの理由だ。一つ目が、いい薬を開発していたことだ。インフルエンザや最近話題になっているエボラ出血熱などのウイルス性の病気の治療薬として期待される「アビガン」があった。
もう一つの理由が「創薬力」だ。開発した薬は臨床試験で効き目や安全性が確認されて初めて市場に出る。臨床試験で多くの薬がふるい落とされる。一般的に開発した薬が市場に出る確率は10%。富山化学工業は40%あり、ヒット率が高かった。市場に出る確率が高いということはそれだけ投資効率がいいということ。このように財務諸表に出ないポテンシャルを数字でとらえるセンスが重要だ。
【4】帳簿上の数字だけで動かない
この先その事業の伸びが見込めないと思っていても、あえて残すという判断がいい結果をもたらすこともある。富士フイルムのインスタントカメラ「チェキ」のヒットがその典型例だ。
写真フィルムからの全面撤退も考えられたはずだが、古森会長は「写真文化を守る」という判断を行った。その一つの形がチェキという製品だった。
チェキはデジタルしか知らない若い世代に新鮮な気持ちで受け止められた。デジタルカメラは撮ったデジタル画像がどんどん流れていく感じだが、チェキで撮るとその場でプリントできて、そこにいろいろとメッセージが書き込める。それを相手に贈ったり贈られたりするコミュニケーションのツールになる面白さがあったのだ。
「写真文化は人間にとって大事な文化。人生のある瞬間を切り取ったモニュメントです。プリントとか写真の形で残さなきゃいけない。その価値がある」
同社の「イヤーアルバム」も写真文化を守るサービスだ。年間1000ショットともいわれるスマホやパソコンの中に残されたデジタル写真から、コンピュータが自動で写りのよいカットを選び、場面設定をして100枚から200枚のアルバムを作ってくれる。
「企業というのは儲けるだけでなく、利益を犠牲にしてもやらなければならないことがあると思っています」