「私の背中を見なさい」というリーダーシップ
澤は時に、チームメートに対して、「苦しくなったら、私の背中を見なさい」と語る。
格上相手に延長戦での失点。緊張の糸が切れて、ズルズルと失点を重ねてもおかしくない状況に陥りながらも、日本選手は集中力を切らさずに走り続け、パスを回し続けた。なでしこジャパンは、あきらめない澤の背中を追い続けていった。
そこには、チームメートの澤への絶大な信頼が感じられる。実は、この信頼感こそが、リーダーシップの基なのだ。「苦しくなったら私の背中」という言葉の背後には、澤が築き上げてきた仲間たちとの信頼関係が隠されている。『7つの習慣』のスティーブン・コヴィーは、人間関係における「信頼残高」という考え方を示している。「信頼残高」とは、ある人が他の人からどのくらいの信用を得ているかという尺度である。よく信用されていれば、その人の「信頼残高」は高い。逆ならば、「信頼残高」は低くなる。
コヴィーは、人と接する場合、まず「信頼残高」を高めなさいと指摘する。「信頼残高」が高ければ、コミュニケーションもスムーズにいくし、共同作業による成果も大きくなるという具合だ。
チームメートの澤に対する「信頼残高」は、素晴らしく高いに違いない。「信頼残高」は一朝一夕にはできない。それは、サッカーだけでなく、日々の触れ合いのなかで、コツコツと積み上げられるものだからだ。
しかし、いったん信頼残高が高まれば、「私の背中」だけで、リーダーシップは発揮できる。そして、リーダーがあきらめなければ、仲間もあきらめないのだ。(文中敬称略)
(PANA=写真)