「検察なんていらない」――裁判所がそう認定したも同然の衝撃的な決定だった。

世論の注目が集まっている民主党の小沢一郎元代表の政治資金管理団体を巡る政治資金規正法違反事件の裁判(被告は小沢氏の元秘書3人)で、東京地裁(登石郁朗裁判長)は、小沢氏の元秘書3人の捜査段階での供述調書38通のうちのかなりの部分について「(検事が)威迫と利益誘導を織り交ぜて(元秘書らに)署名させたもので任意性がない」として、検察側の証拠申請を却下した。

これらの中には「小沢氏に虚偽記載を報告し了承を得た」とする石川知裕元秘書(現衆院議員)の供述調書も含まれており、10月にも始まるとみられる小沢氏を被告とする裁判にも大きな影響が出るのは必至。大阪地検特捜部の前田恒彦元検事による証拠改ざん事件で地に墜ちた検察の威信は、今や風前の灯だ。

地裁決定によると、元秘書3人を取り調べた検事は、「他の秘書がすでに罪を認めている」と虚偽の事実を伝えたり、小沢氏の逮捕を匂わせて威迫するなどして、供述を誘導し署名させたとしている。虚偽の事実を伝えて供述を引き出す取り調べは「切り違え尋問」と呼ばれ、作成された調書には任意性がない。

「厚生労働省の村木裁判では前田元検事が証拠を改ざんした。しかし元秘書裁判では、“自供しないと小沢氏を強制起訴する可能性があるぞ”と言ったり、元秘書の目の前でメモを破いたことが威迫とされたりしている。検察幹部らは“あれが威迫とか利益誘導と言われるなら、取り調べは成り立たない”と衝撃を受けている。村木裁判によって裁判官にも検察捜査への不信感が広まっていたが、今回の決定は“裁判所は検察調書を信用しない。法廷での証人の証言など面前での証拠だけで裁判官が判断する”と検察無用論を主張したのも同然です」(検察OB)

この決定により、小沢氏を巡る2つの裁判で検察は窮地に立った。「元秘書を逮捕した特捜部など関係した検事全部が今夏の人事で粛清される」(検察関係者)との見方が強まっているほか、小沢強制起訴を決議した検察審査会についても、制度の大幅見直しが行われる可能性が出てきた。今回の決定は刑事裁判制度を根本から変える内容をはらんでいる。