修正して新しい憲法に生まれ変わる
【塩田】安倍首相は政権復帰の直後、2013年の春先まで、「衆参両院の総議員の3分の2以上」と発議要件を定めている現行憲法の第96条を、ほかの条項よりも先に改正を、と唱えていましたが、今回の1回目の改正事項では第96条の改正は取り上げないのですか。
【船田】総理はおっしゃっていません。一昨年は、祖父の岸信介元首相以来の懸案の憲法改正に取り組んで、「戦後レジームからの脱却」の総仕上げにしたいという思いが非常に強くあり、憲法について発言したいという気持ちが非常に強くあったのだと思いますね。
それであの発言になったのですが、批判を受けて、総理として学習をされたのではないかと思います。憲法改正の必要があり、改正したいという意欲は示していますが、あれ以来、内容についてはほとんどおっしゃらなくなった。
【塩田】憲法上は、内閣総理大臣は憲法改正についてなんの権限もありませんからね。
【船田】ありません。すべて国会です。
【塩田】憲法改正を実現するには国民の理解と支持が不可欠です。どういう憲法をつくりたいか、安倍首相は自ら明確にして国民に訴えなければ、支持は広がりません。
【船田】総理は中身について自分が言うのは控えるのがいいと思っています。われわれは2012年の憲法改正草案が総理の考える憲法改正の姿と理解しています。05年の新憲法草案はもっとおとなしかった。12年は野党時代でしたから、野党として自民党の原点に戻ろうという気持ちが強くて、少し勇ましいことも含めて、草案に入れ込んだ。そのとき安倍さんは、当然、関与していますので、ご自分の意見も相当述べられ、それが草案に反映されていると思います。
【塩田】12年の改正草案は、憲法の前文も全面的に書き替えることになっていますが、今回は前文の話は出ていないのですか。
【船田】前文は憲法全体の姿を反映する形にしなければいけない。私は、改正の中では最後で、何回かやった後、それを踏まえて前文を書き直すのが順番ではないかと思います。
【塩田】自民党には結党以来、条項別の改正という考え方ではなく、占領下でできた現行憲法に代えて自主的に憲法をつくらなければ、という自主憲法制定論が根強く存在しています。ですが、段階的に部分的に改正ということだと、現行憲法の修正となりますね。
【船田】修正です。
【塩田】安倍首相もかつて私のインタビューで「憲法改正案を下地から書こう」と話していました。下地から新しい憲法をつくるということとは違うのでは。
【船田】違います。確かに現憲法はマッカーサー草案が基礎にあり、押しつけられてできた部分、要素はありますが、戦後約70年、その中で経済成長も果たし、民主国家として先進国の仲間入りもできた。押しつけられたから破棄する、あるいはまったくゼロからというのは、革命以外にはできません。定着した日本国憲法を考えると、根っこから変えることはできないと思います。憲法を適切に改正し、部分的な修正を積み重ねていって、結果として新しい憲法に生まれ変わると思っています。私はそういう穏健な考え方です。