木村さんは宣伝だけでなく開発でも「大手の呪縛」に気づく。テレビ番組などで喧伝される研究開発風景では、いかにも博士号を持っていそうな若い担当者が白衣を着て調合に取り組んでいる。一方、自分は博士じゃないし若くもない。そんな者には新商品を作る資格がない、と思い込まされてきた。
だが、そんなはずはない。自分は幼い頃から工場で育ち、いたずら調合という名の英才教育を自らに施してきた。10年前からは世界中を飛び回って様々な飲料を味わっている。一緒に遊んで育った弟は自分以上に調合が上手な「味の魔術師」だ。アイデアと商品化で若者に負けるわけがない。
再起した木村さんは「わさびラムネ」を思いつく。
「最初は静岡特産のメロンを使ったラムネを考えました。あの頃はおいしさの追求に未練があったんですね。でも、加熱殺菌のできないペットボトルには果汁を入れられない。色は同じだし、特産物には変わりないのでわさびでいくことにしました」
緑色つながりでメロンからわさびへ即変更。繰り返すようだが子どもの発想である。飲むとピリッとくるまずいラムネがこうして誕生した。
「あえてまずいものを作ろうというのですから、社内は開発段階から大反対です。でも、強行して作ってみたら面白がって置いてくれるお店がありました。いつでも売れる冬眠しないラムネであることがわかったのです」
夏場の売り上げが大半を占めるラムネは、冬になると「寝てしまう」のが常識。だが「わさびラムネ」は高速道路のSAや道の駅で土産物として話題になり、年間を通して売れ続けたのだ。
「お客さんは『あいつに飲ませてやろう』とパーティーの罰ゲームグッズのような感覚で買っていくようです。味はそんなに関係ないんです」
勢いづいた木村さんは「カレーラムネ」を開発。この商品の発想も安易、いや独自のものだ。
「私はカレーが好きでして、とくに小学校の給食に出たカレースープが大好物。給食のカレー味のラムネを作ったら同級生は泣いて喜ぶに違いないと確信して開発しました。ま、実際に、『まずいまずい』と喜んで買ってくれるのは30代までの若者ですけどね」
ユニークすぎる2つの商品が挙げた成果で木村さんは悟った。大手と同じことをやると圧倒的な体力差で置いていかれる。むしろ180度反対の方向に進むべきなのだ、と。