「いい提案が上がってこない」と嘆くよりも、自分で考えよう。自らがアイデアを出し、会社を引っ張っている社長たちをご紹介する。
「観光」と「地域の足」二兎を追う宿命
鉄道ファンから「わ鐵」の愛称で親しまれている、わたらせ渓谷鐵道(本社 群馬県みどり市)。ピークの1994年には年間輸送人員106万人を数えたが、その後、沿線住民の減少や高齢化によって乗客数は激減し廃線を噂されるまでになった。そして、2009年には50万人を割り込んだ。
ところが、ある人物の登場が、このわ鐵の窮状を救うことになる。
イベント列車の増発、マスコットキャラクター「わっしー」やオリジナル駅弁の開発、ユニークな関連グッズの発売などが多くのメディアに取り上げられて全国的に注目を集め、12年には、沿線住民の減少というトレンドが変わらない中、前年に震災の影響があったものの前年比18000人の輸送人員増加という実績をあげた。
ある人物とは、09年、わ鐵の社長に就任した樺澤豊である。前職は群馬県庁職員で、専門は建築。鉄道に関してはズブの素人だったというが、話を聞くうち、わ鐵復活の背景には、樺澤の明晰なコンセプト・ワークが輝いていることが見えてきた。樺澤が言う。
「まずわ鐵とは何かといえば、あくまでも補助金をもらって運営している公共交通機関なんです。ですから事業目的は維持存続。それには沿線地域の活性化が不可欠であり、活性化には観光をやる必要がある。単に観光だけが目的であれば、補助金をもらわない代わりに客がいなければ走らせないこともできる。しかし、うちはあくまでも公共交通機関だから、常に一定の本数を走らせなければならないのです」
樺澤が社長に就任した当時の関連グッズは、25種類。樺澤はそれを160種類に増やし、売り上げも270万円から1000万円強まで押し上げたが、グッズ開発の基本に据えたコンセプトは「地産地消」と「こだわり」。グッズ販売も、あくまで地域活性化の一助と位置づける。