「いい提案が上がってこない」と嘆くよりも、自分で考えよう。自らがアイデアを出し、会社を引っ張っている社長たちをご紹介する。
「最高金賞」でもなぜ売れないか
カレー風味の「カレーラムネ」は発売6年間で累計350万本、お茶を加えた「しずおかコーラ」は初年度だけで200万本を突破――。意表を突く地ラムネ、地サイダーでヒットを連発している中小企業がある。静岡県島田市の木村飲料だ。
奇抜さ勝負の企画会社ではない。今年で創業60周年を迎える木村飲料は、県内に2つの工場とデザイン室を構え、2006年には自信作「元祖ビー玉ラムネ」でモンドセレクションの金賞(翌年には最高金賞)を受賞した。品質でも定評のある老舗飲料メーカーなのだ。
だが、現在はラムネの常識を打ち破るユニーク商品の開発に邁進している。
きっかけは、皮肉にもモンドセレクションだった。木村飲料が金賞を受賞した06年、サントリーのプレミアムモルツも2年連続の最高金賞を受賞。40年以上も赤字だった同社のビール部門の黒字化に貢献したのは有名な話だ。
一方の木村飲料。同じく受賞したはずの「元祖ビー玉ラムネ」はなぜか売り上げを落としてしまった。
「原因はわかりません。デザインもいいし、味もおいしいのに……。宣伝費をかけられない中小企業は大手に勝てないのだと本当にガックリしました。いいものを作れば売れると思っていたのが間違いだったのです」
悔しげに当時を振り返るのは、木村飲料の3代目社長である木村英文さん(57歳)。失意の中で思い出したのが、前年に営業部長の発案で売り出した「必勝合格ダルマサイダー」である。地元の神社で祈祷してもらったサイダーをダルマ型のボトルに入れた。
「世界初のお祓い飲料として受験生に人気を博しました。中身の味は同じですよ。でも、目に見えない力が体の内側から働く……はずです」
はっきり言ってふざけている。発想がまるで子どもである。
「いや、本当にそうなんです。子どもの頃を思い出しました。うちの工場内が遊び場でしたから、調合室に弟と忍び込み、変なサイダーやラムネを作るいたずらをしていました。でもね、本来、清涼飲料は遊びながら作るものだと思うんですよ」