たとえば、「わ鐵のお守り」。線路に撒く滑り止めの砂が入っており、受験の滑り止めに霊験があると全国から注文があるが、お守り袋には始発駅がある群馬県桐生市名産の織物を使っている。
また、神戸(ごうど)駅で予約販売している駅弁、「やまと豚弁当」には地元の農場が飼育するやまと豚というブランド豚を使い、こちらも年間13000食を売り上げる人気商品に育て上げた。
「最初は営業のほうも『たかが駅弁でしょう』という感じでしたが、テレビで取り上げられると、やまと豚自体の宣伝になると非常に喜んでくれました」
わ鐵と一緒にやらないと損だ
一方、樺澤が観光のコンセプトに据えるのが、「ないものねだりより、あるもの探し」というフレーズだ。
「中東の人を日本に招いたとき雨が降りっ放しだったので、招いた日本人がお詫びを言うと、『国に帰れば1年中雨が降らない。毎日のように雨に出合えて、一生で一番幸せだった』と逆に感謝されたという話を聞きました。つまり外国人から見れば、われわれの日常生活自体が観光なんです。だから、あれがないこれがないと嘆くよりも、あるものを探せばいいのです」
たとえば、トロッコ列車のイルミネーションがその象徴だ。
わ鐵は群馬県桐生市の桐生駅から栃木県日光市の間藤(まとう)駅まで、44.1キロを約1時間30分で結ぶが、途中駅の神戸と沢入(そうり)の間に、全長5242メートルの草木トンネルがある。
樺澤は、沢入駅からさらに渓谷を遡ったところにある足尾地域を活性化して観光の目玉に据えたいと考えているが、草木トンネルの通過には約10分かかり、その間まったく景色が見えないため、手前の神戸駅で降りてしまう客が多かった。
「このトンネルをなんとかしたいと思っていたら、偶然、県庁でお世話になった造園業の方が訪ねてきて、『何かお手伝いできることはありませんか』とおっしゃる。彼は榛名湖のイルミネーションを手掛けた人物でした」