樺澤はトンネルの天井ではなく、トロッコ列車の天井にLED電球を取り付けてトンネル内で点灯させるアイデアを思いついた。トンネル全体のライトアップは費用もかかるし維持も大変だが、列車の天井ならお金をかけずに幻想的な雰囲気をつくり出せる。その人物にこのアイデアを話すと、会社に余っている6500球のLEDを無償で提供してくれることになった。
「5500球買い足して12000球にしましたが、それ以外、ほとんどお金はかかっていません。これもテレビなどで取り上げられて評判になったので、神戸駅の先まで乗ってくださるツアーのお客さんがずいぶん増えました」
トンネル内の暗闇を観光資源に変えてしまうという、まさに「あるもの探し」の真骨頂だが、このイルミネーションの例が象徴するように、樺澤のアイデアにはお金がかからないものが多い。なぜなら、そのほとんどが地場産業や県庁時代に培った人脈との「連携」によって実現されているからだ。
「うまく連携をするためには、『わ鐵と一緒にやらないと損だ』という状況をつくり出すことです。もっと言ってしまえば、わ鐵人気に便乗して儲けてくださいねということです。WINWINの関係って、そういうことでしょう」
わ鐵人気に便乗してもらうには、まず、わ鐵が先行して話題になる必要がある。
「たとえば『やまと豚弁当』はおそらく日本で唯一、鉄道会社が作っている駅弁なんです。他の駅弁はみな地元の弁当屋さんなんかが作っているんですね。話題づくりの秘訣は、こうした『全国初』とか『日本で唯一』という情報を発信することです。そうすれば、メディアも取り上げやすいでしょう」
樺澤の巧みなメディア戦略によって、わ鐵は年に600回もメディアに取り上げられる「人気者」となった。そして、11年の「スペシャリストが選ぶ乗ってみたい第三セクター鉄道ランキング」(『旅と鉄道』)でみごと第1位を獲得した。廃線を口にする人は、もう誰もいない。