一見すると、硬い専門書だ。実際本書は、著者自身のアウトソーシングに関する優れた研究成果に基づいて、国際経済学の最先端の研究が説明されている。しかし、数式はまったく出てこないし、わかりやすい統計データや図表が多用され、著者のメッセージが容易にわかる工夫がなされている。
とはいえ、学術的な説明や専門的な記述も多く、新書の入門書のように気楽に読めるものではない。噛みごたえのある本であることは確かだ。
このような専門書は、どんなふうに読めばいいのか。割り切った言い方をすれば、「わかるところだけ」「自分がピンとくるところだけ」読めばいいと評者は考える。経済学者であっても、経済の研究書を隅々まで理解できるわけではないのだ。ましてや、日頃の仕事で忙殺されている読者諸兄は、専門書は積極的に「拾い読み」すべきだと思う。
そういう目で本書を眺めてみると、国際的なビジネスのあり方を考えるうえで、あるいは今後のグローバル化を考えるうえで、とても有益な情報やメッセージがあちこちに含まれている。
本書が扱っているのは、国際的に増大しているアウトソーシングの動きが、貿易や経済にどのような影響を与えるのかという問題だ。特に日本企業による海外アウトソーシングが生産性や雇用、研究開発にどのような影響を与えているかを、厳密な実証手法に基づいて分析している。
本書で考えているアウトソーシングの例としてイメージしやすいのは、賃金の安いインドの企業(あるいは現地法人)に、ソフトウエアの開発やプログラミングを任せてしまう動きだ。このような動きは製造業の様々なプロセスでも進んでおり、世界全体の貿易構造に大きな変化をもたらしている。
それが実際どのような変化なのか、どこにどのような変化をもたらしているのかは、本書の主要部分を「拾い読み」すればよくわかるはずだ。
アウトソーシングは当初、賃金の安い国に単純労働を移すという形で進展した。しかし発展途上国のスキルが向上するにつれ、高度な技術や能力を要する分野についてもアウトソーシングが進んでいる。
また本書の最後の章で議論されているように、今後は、技術の高度化で対面サービスのような業務の「機械化」が進むことにより、アウトソーシングが増大していくことも考えられる。この今後の動きを展望している最後の章は、評者と多少意見を異にする主張もあるが、とても興味深いメッセージが含まれている。
誰にとっても読みやすい本や理解しやすい情報だけを求めていたのでは、他者と知識の差別化はできない。本書のような専門書に「拾い読み」でいいから目を通すことは、きっと読者諸兄の知の差別化に役立つに違いない。