実際にフルコスト主義の観点から2008年、製品の値上げを断行した。その結果、09年3月期の連結決算は売上高が前期比2.6%増の4467億円、純利益は38%増の78億3000万円を達成している。その一方で09年の2月には原油などの原料の下落を反映し、製品の値下げにも踏み切っている。大坪は「原油などの変動費が下がった場合は値下げもするし、取引先も『レンゴーは値上げも非常に強気だが、値下げもちゃんとやっている』と評価してくれている。これもフルコスト主義を理解してもらううえで重要なこと」と言い切る。
限界利益の追求は過剰生産、過剰在庫に陥るとの強い危惧が大坪にはある。失われた10年が生んだ過剰設備・過剰在庫を正常化するためにレンゴーは業界の先頭を切って事業構造改革に着手してきた。01年当時、日本で53万トンあった段ボール原紙を40万トン以下に減らすために、大坪は自社の製紙工場を閉鎖するとともに、20万トンの在庫を15万トン以下に縮小した。レンゴーの動きに刺激された同業他社も追随し、結果的に40万トン以下にすることができた。
さらに減産分を補うフルコスト主義に基づく価格体系の正常化に着手するなど一連の改革を推進してきた。いうまでもなく段ボールは物流にとって不可欠な存在であり、ほぼ全産業に関わる。他の産業が再編・集約化されていくなかで、物量に関わる段ボールメーカーの集約化も必然的に求められてくる。結果的に破談に終わったものの、2008年、大坪が持ちかけた日本製紙グループ本社との経営統合もそうした危機感の表れである。
もちろん物流がある限り段ボールが消えることはないが、経済の成熟化による需要の落ち込みは避けられない。そのためには時代やユーザーのニーズにマッチした新たな需要を喚起していく以外にない。現在、同社は事業戦略のビジョンとして、省資源とCO2対策を柱に、段ボールを中心にした包装紙材を駆使し、ユーザーの多様なニーズや課題を解決していくパッケージ・ソリューション・カンパニーを掲げている。
省資源の取り組みの一つが、「Aフルート」と呼ばれる厚さ5ミリの段ボールから4ミリの「Cフルート」への転換だ。日本はAフルートが主流だが、Cフルートは世界で約60%を占める標準仕様。わずか1ミリ薄くなるだけだが、容積は約20%減となり、車の積載・輸送・燃料効率は飛躍的に向上する。しかし、Cフルートへの転換はコストもかかるため同業他社も踏み切れないでいた。大坪は4年前に自ら陣頭指揮をとり、強制的に全工場での生産を指示し、今や同社が優位性を誇る商品となっている。
かつての段ボール営業といえば、新規開拓するには価格の安さを売り物にしていたものだが、もはやそんな時代ではない。顧客に対し「知恵と知識を武器にお客様の役に立ついろんな提案を仕掛けていく」(研究・技術開発部門パッケージング技術開発本部・木村博行パッケージ・デザイン部長)ことがビジネスの勝機につながる。パッケージは単に物流の手段ではなく、数多くの消費者の目にもさらされる。商品を消費者に訴求するメディアとしてのパッケージの役割も同社では重視している。
段ボールは物と物との間にある「空間」を演出する素材でもある。成熟する市場のなかで見えない需要を掘り起こすという「きんとま」哲学の理念にも適った戦略といえる。時間を重視した生産性の向上、正社員化による人間を大切にする経営、そして空間を駆使した新規ビジネスの創出――。きんとま哲学の本領がいかんなく発揮されている。
(文中敬称略)