コミュニケーションは、多様な要素の複合体(発信側だけでも「伝え手」「伝える中身」「伝え方」が関係している)である。経営者の話を分析していくと、いかなるときにも有効な「普遍原理」のようなものが確かに存在している。ここでは、それぞれの経営者が見出した「伝え方」を考察してみよう。
相手の立場になって「価値を提供したい」
依頼状を書く際、私は「相手の立場になりきる」ことを心がけている。文章の一言一句を見て相手がどんな印象を受けるか――。
まだ社員数名の規模だった頃、我々からお願いして当社の転職サイト「Find Job!」の求人情報をヤフーの求人コーナーに提供させていただいたことがある。まずニュースやIR情報を収集して同社の戦略を理解するとともに、今、ヤフーにどのような魅力が足りないか、どうすればより収益を拡大できるかを考え抜いた。そのうえで、当時はまだなかったアルバイト求人コーナーの立ち上げを提案した。当社はIT系のアルバイト情報を豊富に持っており、そこに我々の情報を掲載することで、御社は幅広いユーザーにリーチできるのではないか、と。
零細企業だった当社の依頼が受け入れられたのは「一緒に価値を提供したい」というこちら側の純粋な熱意が伝わったからだと思う。
(09年6月1日号当時・社長 構成=宮内健)
奈良雅弘氏が分析・解説
最初に分析・解説するのは「事実や意見を相手に理解してもらう」という目的に照らしたとき、どのような伝え方が望ましいかについてである。
世の中に悪文は多々あるが、ことビジネス文書に関していえば、悪文と呼ばれるものには共通性がある。何か。相手を見ていないということである。相手の関心は何か。相手は今どういう状況にあるのか。そうしたことに配慮せず、見当外れなことをダラダラと書く。こうした傾向がほぼすべての悪文に共通している。
アール・アンド・イー合同会社代表 奈良雅弘
1959年生まれ。東京大学文学部卒業。人材育成に関する理論構築と教育コンテンツ開発が専門。著書に『日経TEST公式ワークブック』(日本経済新聞社との共編、日経BP)がある。
1959年生まれ。東京大学文学部卒業。人材育成に関する理論構築と教育コンテンツ開発が専門。著書に『日経TEST公式ワークブック』(日本経済新聞社との共編、日経BP)がある。
(奥村勝之=撮影)