環境変化に対応して意識改革せよ

おそらくそれは“ペイ・フォー・ジョブ(pay for job)”という発想が徹底していたからだと思う。シンガポールでは仕事は違っても、皆がその分野のプロを自負し、高いプライドを持っていた。もちろん、職務や職制によって給与には差があるものの、互いに敬意を払いながら業務をこなしているのだ。そこに満足できない者はキャリアデベロップメント(キャリア形成)を心がけ、さらにコンピタンス(能力)を上げていくという努力を怠らない。

80年代のことだから、日本経済はまだ安定成長期にあり、いわゆる日本型経営がもてはやされていた。そこでのキーワードは終身雇用であり勤続年数によって経験値が上がっていくとする年功序列である。確かに、会社が成長・拡大していて、将来に期待ができる時期には、これらはすぐれた制度設計だったろう。社員は安心して働け、昇給・昇格も心配しなくていい。

しかし、右肩上がりの経済も終焉し、90年代も半ばを過ぎると長期不況に陥る。すると、日本的経営が見直され、多くの企業で成果主義の考え方が導入されていく。多くの企業で、目標管理を用いた評価制度、年俸を前提に時間で拘束しない裁量労働制などが実施されるようになった。私は、すでにシンガポールで経験しているので違和感はなかったが、あまりにも拙速だったのか、うまく機能しない会社も少なくなかった。

経営における人事や報酬の制度設計は「これが正しい!」と断言できるものはない。その時々の経営環境の変化に応じたモデルの構築が大切だと考える。とはいえ、もはや国際化の波を止めることはできない。であるならば、そのトレンドに合わせてマインドセット(意識改革)をすべきだ。そして、ビジネススキルとともに総合的な教養を磨いておくこともビジネスマンの必須条件だ。

香藤繁常(かとう・しげや)
1947年、広島県生まれ。県立広島観音高校、中央大学法学部卒。70年シェル石油(現昭和シェル石油)入社。2001年取締役。常務、専務を経て、06年代表取締役副会長。09年会長。13年3月よりグループCEO兼務。
(岡村繁雄=構成)
【関連記事】
グローバルで勝てない日本人のための特効薬
日本とアメリカ、働き方の本質的な違いとは
ナルシストが「グローバル人材」へと進化する時
任される人、放置される人……二極化が進む理由
長期休暇が社員を育てる