トレーディングの醍醐味とは

昭和シェル石油 香藤繁常会長兼CEO

1985年、昭和石油とシェル石油が合併し、昭和シェル石油が誕生する。2度のオイルショックによる原油価格の急騰や円高が進むなかで、石油元売り会社が再編成に舵を切っていくさきがけとなった。私は1987年11月、赴任先のシンガポールから帰国。製品貿易部海外二課長の辞令を受けた。仕事はこれまでと同じ、原油および石油製品のトレーディングである。

それまでは、私個人の判断で市場価格や競合他社の動向を探り、同僚のトレーダーとも情報交換しながら買いと売りのタイミングを決めていた。取引が成立すれば、その日のうちに製油所への連絡や船の手配もし、代金の回収もする。この一気通貫の流れにトレーディングの醍醐味がある。だが、課長となるとチームを率いることになる。私たちは、シンガポールと日本をつなぐ取引を手がけ、原油はもちろん、石油化学製品原料やナフサ、航空機燃料なども扱った。

そんなおり、ロイヤル・ダッチ・シェルがサウジアラビアに輸出用の製油所を設けた。日産40万バレルの規模を誇り、シェルが2割の権益を持つ。当然、そこで生産される石油製品の日本向け販売は我々が担当するものと思っていた。ところが、シェルはダイレクトに日本の顧客に販売するという。今までの商習慣を破る行為である。

とうてい納得できず「では、我々昭和シェル石油も中東産油国から石油製品を直接購入し、日本市場で販売する」と宣言した。ロンドンの貿易部門と東京との"トレードウォー"の勃発である。

シェルにしてみれば、自分たちが製油施設を持っているわけだから「顧客が買いに来るだろう」と考えていたらしい。しかし、それは供給側の論理であり、どんなに高品質の石油製品だとしてもマーケティング力が弱ければ売ることができない。私たちはそこに活路を見つけ、すでに整備されている日本国内の販売網を武器に戦った。結果的にそれが功を奏し、日本市場は当社が受け持つことで決着する。