この調査から明らかなように、アンカーは、自分はそのような影響は受けないと思っている人々の判断にさえ影響を及ぼす。だが、なぜそうなるのか。

それは、交渉の対象になるアイテムが、どれもみなプラスの特性とマイナスの特性──高い価格を示唆する特性と低い価格を示唆する特性──を備えているからだ。高いアンカーはわれわれの関心を選択的にアイテムの長所に誘導し、低いアンカーはアイテムの欠点に誘導する。かくして、高い表示価格は不動産業者の関心を住宅のプラスの特性(広い部屋や新しい屋根など)に向けさせ、その一方でマイナスの特性(狭い庭や古い家具など)を彼らの頭の隅に追いやったのだ。

最初に提案をすべき状況はこんなとき

ファースト・オファーをすることで、あなたは交渉を自分に有利なほうに引き寄せることができる。実際、ムスワイラーと私は、ファースト・オファーをするという行為が交渉優位をもたらすことを明らかにしている。われわれの共同調査では、交渉の最終結果は買い手と売り手のどちらがファースト・オファーをするかに左右されるという結果が出た。売り手がファースト・オファーをした場合、買い手がファースト・オファーをした場合より最終合意価格が高くなる傾向にあるのだ。

ファースト・オファーをする可能性は、交渉の席でのネゴシエーターの自信と自分がその場を支配しているという意識に関係があることも、私自身の調査で明らかになっている。交渉の組み立てのまずさや他に選択肢がない状況のせいで力がないネゴシエーターは、ファースト・オファーをしたがらない場合が多い。力と自信は、ネゴシエーターをファースト・オファーへと導くので、よりよい結果を生む。さらに、より積極的な、もしくはより大胆な額を提示したときのほうが、オファーをした側にとってより有利な結果につながる。最初のオファーのほうがその後の譲歩行動よりも、最終合意価格を予示する指標として適しているのである。

ただ、交渉対象のアイテムについて、あるいは関連の市場や業界について、相手のほうがあなたよりはるかに多くの情報を持っている場合は別だ。たとえば、リクルーターや雇用主は一般に求職者より多くの情報を持っている。しかしこれは、相手がファースト・オファーをしてくるまで手を拱いて待っていなくてはいけないということではない。むしろ、あなたがそのアイテムや業界について、あるいは合意以外の相手の選択肢について情報を集めて、同じ土俵にのるチャンスだ。

ファースト・オファーはかなり積極的であるべきだが、突拍子もなく積極的であってはならない。多くのネゴシエーターが、積極的なファースト・オファーを出したら相手は交渉の席から立ち去ってしまうのではないかと恐れている。しかし、調査が示すところでは、この不安は概して取り越し苦労だ。むしろ、ほとんどのネゴシエーターが、積極性に欠けたファースト・オファーを行っているのである。