昨日まで「サービスに満足している」と答えていた顧客が、前触れもなくライバル会社に奪われていくのを手を拱いて見ている必要はない。「顧客の離反」の真の原因を突き止め、対策を講じるための手順を紹介する。

平均的な消費者が月ぎめ契約している加入ベースのサービスの種類は、過去20年で急増した。インターネット接続サービス(ISP)、ケーブル・衛星テレビサービス、携帯電話、Wi-Fi(無線LANの標準規格)機器によるインターネット接続サービス、スポーツクラブ会員権等々──消費者がこうしたサービスに支払っている金額は、かつての3倍にのぼるかもしれない。おまけに、どのカテゴリーでも、かつてはローカルな2、3の独占企業しかなかったのに、今ではいくつもの選択肢がある。

こうした競争の激しい環境では、加入ベースのサービスを提供している企業は──というよりも、顧客との長期的な関係に依拠している企業はすべて──顧客獲得に費やすのと同等のエネルギーを顧客維持に注がなければならない。

顧客の離反がなぜ、どのように起きるのかを理解することはきわめて大切だ。離反という現象は、消費者が経験した質が、競合他社のサービスとの比較で、もしくは消費者自身の期待との比較で、一定の限度を下回ったときに起きる(前者を「比較離反」、後者を「不満離反」という)。しかし、消費者の経験のどの部分が問題なのかを、どうやって突き止めればよいのだろう。

顧客満足度調査や姑息な顧客引き留めプログラムは、どの消費者価値やどの欠陥が顧客を離反させるおそれがあるかを正確に教えてはくれない。携帯電話のユーザーは「週に10回も通話中に切れるなんて我慢できない。だから、3カ月後に契約を解除すると日記に書いておこう。ところで、あの顧客満足度アンケートはどこにあったかな」というような反応をしてくれるわけではない。「もううんざりだ。今すぐやめよう」となるのである。離反という行為は、自分が受けるサービスに対する顧客の認知が変化したとき、突然訪れる悟りのようなものなのだ。顧客満足度調査は、このような悟りの瞬間を持った顧客を十分にとらえることはできない。そうした顧客はすでに離れ去っているからだ。

ヨーロッパのあるISP業者の場合、われわれが突き止めたところでは、離反した顧客の80%近くが離反前の12カ月以内に記入したアンケートで「満足している」もしくは「とても満足している」と答えており、その時点では自分が離反するとは思っていなかったことがうかがえた。このような場合には、自己申告の顧客満足度を重視することは、高くつく誤りにつながってしまう。

広く用いられているもう1つのアプローチとして、解約時もしくは解約後の聞き取り調査があるが、これはごくありふれた役に立たない情報しか与えてくれない。「料金が高すぎる」とか「質が悪い」といった回答では、経営陣が最重要分野に努力を集中する手がかりにはならない。不満を持った顧客にその理由を尋ねても、彼らはたいてい質問に答える気分ではなかったり、自分でも理由がよくわかっていなかったりする。また、ひたすら話を早く終わらせたいと思っていたり、聞き手の気分を害したくないと思っていたりする。この段階で顧客を引き留めようとしても、たいてい遅すぎるのだ。