マネジャーが権限委譲を嫌がる理由はさまざまだ。部下にやらせるより自分でやったほうが早いと思い込んでいたり、自分が不要と思われるのが怖かったり。だが、何でも自分で抱え込むマネジャーこそ、組織のボトルネックなのである。
部下が問題解決力や意思決定力などの職業能力を高められるよう、手助けをするのが役員やマネジャーの仕事の重要な一部である。つまり、直属の部下の問題を何もかも引き受けるのは望ましくない。しかし、厳しい時間的プレッシャーにさらされているマネジャーは、「モンキー=部下の問題」を渡されそうになるとどうするか(「モンキー」というのは、ウィリアム・オンケン・ジュニアとドナルド・L・ウォスが、1974年に「ハーバード・ビジネス・レビュー」に投稿した「Management Time: Who's Got the Monkey?」に由来する言葉)。
厳しいプレッシャーがかかっている状況では、部下のモンキー(問題)を引き取るほうが、部下が自分自身でその問題を解決できるよう時間をかけて指導するよりもはるかに効率的に思えることがある。
モンキーをその本来の持ち主に返すことは、今日ではさらに難しくなっているようだ。1つには、マネジャーたちが、目に見える結果をこれまで以上に早く出せというプレッシャーをますます強く受けるようになっているためだ。それに加えて、企業研修請負会社フランクリン・コヴィーの副会長、スティーブン・コヴィーが言うように、一部のマネジャーは、部下への権限委譲を増やしたら、厳しい経済情勢のなかで無能だとか不要だとみなされるのではないかと恐れている。個人としての卓越したパフォーマンスで新たにマネジャーに昇進した人は、権限委譲をとくに難しいと感じることがある。
しかし、権限の委譲がさらに難しくなったと同様に、企業が競争力を追求することもさらに重要になっている。コヴィーは次のように語る。「20~30年前は、財やサービスに付加される価値のうち、ナレッジ・ワークによるものは30%にすぎなかった。今ではそれが80%になっている。だから企業は、生き残りたいと思うなら、社員に権限を与えて、彼らが自分で考え、自分の経験や知恵を頼りに決断できるようにしなければならない」。
以下、権限委譲を容易に、かつ効果的に行うためのテクニックを紹介する。