[1] 部下の問題から自分を解放せよ

多くの企業幹部にとって、より効果的な権限委譲への道は、自分の役割についての2つの基本的な思い込みを見直すところから始まる。第1に、多くのマネジャーが「部下を指導して自力で問題に対処できるようにするよりも、部下の問題を引き取るほうが早くて効率的だと、依然として思い込んでいる」とザ・チェインジ・エージェントのビジネス・アドバイザーで著述家のパティ・ハサウェイは指摘する。そして第二に、「自分のほうが部下よりよくものを知っていると思っている」と。

こうした思い込みは、部下に権限を与えるのではなく問題解決や意思決定を自分でコントロールしたいというマネジャーの気持ちを強めるだけだ、とハサウェイは言う。これを抑えるために、彼女はクライアントに、マネジャーとしてではなくリーダーとしてものを考えるよう勧めている。マネジャーは、「(たとえば、直属の部下の問題を解決するなどで)細部を管理する。リーダーは部下の主体性とアカウンタビリティを高めることで人を管理する」と、彼女は説明する。自分をリーダーととらえることで、マネジャーはもっと気楽に抵抗なく、仕事を最初から任せたり、モンキーを持ち主に返したりできるようになる。

ワシントン・ミューチュアル・ナショナル・オペレーションズ・センターの元第一副社長、カイル・ビーティも同じ考えだ。「部下を細かいところまで管理しようとしたら、その行動は部下に、私が彼らを必要としていないというメッセージを送ることになる」。

[2] 命令するのではなく、質問せよ

効果的な権限委譲のために、問題を手放すことに劣らず重要なのが、それをどうやって部下に任せるかだ。この点で、任せ方がうまいマネジャーは、命令するのではなく質問することが大切だと心得ている。「『何をすべきだと思うかね』と質問することで、今度私のところに問題を持ち込むときは解決策の案も一緒に持ってくるべきだと部下に教えることができる」と、ノース・カロライナ州グリーンズボロのコンサルタント会社ザ・ハーマン・グループの社長、ジョイス・ジョイアは言う。さらに「君が提案している解決策を実行するとしたら、検討しておくべき点は何だと思うかね」「顧客Bのときには、われわれはこの状況にどう対処したんだったかな」といった、相手の意見を引き出す質問をすることで、部下が自身の問題をどこまで深く考えているかを明らかにすることができる。

ノース・カロライナ州のMGMトランスポートの社長、エドワード・マスードはこのアプローチを利用して大いに成功している。「質問するという方法を取る前は、私の部屋の前には部下の行列ができていて、私は夜の7時か8時までオフィスに残って問題を片づけていた。今では、部下が私のところに来る回数は激減した。たまに来たときも、以前よりはるかに迅速に問題を解決することができる。複数の候補案を考えてから私のところに来るからだ」。