積極的な提案を恐れてはいけない

あなたが売り手だとすると、より大胆なファースト・オファーはより高い最終合意価格につながる。そのうえ、積極的なオファーをすれば、あなたは譲歩する余裕を持つことができ、しかも譲歩しても他の選択肢よりはるかに好条件の合意に達することができる。

積極的でないオファーをすると、あまり魅力のない2つの選択肢しか残らない。小幅の譲歩をするか、自分の要求に固守するかである。ネゴシエーターが交渉結果にどの程度満足するかは、相手から引き出す譲歩の数と大きさに大きく左右される。積極的なファースト・オファーを提示して、相手にあなたから譲歩を「引き出す」チャンスを与えることで、あなたはよりよい結果を得られるだけでなく、相手の満足度を高めることもできるのだ。

積極的な(だが、常識的な範囲内の)ファースト・オファーを組み立てるにあたって、あなたが意識すべき価格が2つある。まず、合意に代わる選択肢を検討して、合意よりも交渉をとりやめたほうがいいと判断する「留保価格」を決定しよう。これで、自分の留保価格より上の合意ならどんな合意でも受け入れ、留保価格より下の価格ならどんな価格でもはねつける準備ができる。次に、その交渉でのあなたの望みや願いをすべて満たす「目標価格」を決定しよう。

自分の留保価格を意識することはきわめて重要だが、ファースト・オファーを組み立てる際に注目すべき価格は目標価格である。ムスワイラーと私たちが行った調査によって、目標価格に注目した場合、そうしない場合よりも積極的なファースト・オファーを出し、最終的により有利な合意に達することが判明している。

あなたのファースト・オファーが、相手を交渉の席から立ち去らせるほど大胆にならないようにするには、どうすればよいのだろう。相手の合意以外の選択肢に注目し、市場動向も踏まえながら相手の留保価格を見きわめればよいのである。研究者のジョン・エッシュとグレン・ホワイトは、最も望ましいファースト・オファーは相手の留保価格を超えたところにあって、なおかつ相手に本気にされなかったり、無視されたりするほど遠く離れていないところにあることを明らかにしている。

目標価格に注目して積極的なファースト・オファーを提示する一方で、有利な合意をはねつけることのないよう、譲歩する心づもりもしておこう。そうすれば、譲歩してもなお有利な取引を勝ち取ることができ、相手も結果に満足するのである。

(翻訳=ディプロマット)