ハビエル・アギーレ(サッカー日本代表監督)
まさに時の人である。サッカー日本代表監督に就任したハビエル・アギーレ氏。先の就任会見では数百人のメディアの熱視線を浴びながら、55歳のメキシコ人は落ち着いた口調で抱負を口にした。
「素晴らしい選手がいる国で監督ができることをうれしく思います。重視したいのはバランス。11人全員が守備も攻撃もできるチームを目指したい」
外国人監督の場合、絶えずついてまわるのが言葉の問題だろう。「コミュニケーションは大丈夫か?」と聞かれると、「問題ありません」と柔和な笑みを浮かべた。
「日本語ができないのは、障害にならないでしょう。サッカーをやるものにとっては、ボールが共通語です。難しいことは、通訳の手を借りればいいのです」
偉ぶったところはない。実直な性格なのだろう。長旅の疲れも見せず、就任会見では1時間余も丁寧に答え続けた。「自分の名前をはっきりと発音してください」との質問にも苦笑いを返した。
この質問は意外に記者にとっては大事で、いつもどうカタカナ表記するかで難儀するのだ。アギーレ新監督は「アギーレッ。アギーレッ。アギーレッ」と3度、ゆっくり声に出した。間をおき、もういっちょ、「アギーレッ」と重ねた。つまり、「ア・ギ・レ」と区切った場合、アクセントは2音節目にくるから、カタカナ表記では「アギーレ」となる。
選手を選ぶとき、何を大事にするのか? と聞かれると、「とにかく見ることです」と即答した。
「自分の目で実際に見ることを重要視していきたい。つまり、すべてのプレーヤーに対して(日本代表への)ドアは開いているということを言いたい」
経験は豊富だ。選手としてメキシコ代表となり、1986年ワールドカップ(W杯)では8強に進んだ。監督としては、2002年W杯、10年W杯で母国を16強に導いた。情熱に満ちあふれ、鉄拳制裁もいとわない熱血監督との評もある。
サッカー哲学を聞かれると、「非常にシンプルです」と答えた。
「たくさん走る。いいプレーをする。そして勝利を収める。これに尽きます」
外国人監督にとってコトバより大事なことは、日本の文化、日本人を理解しようとする姿勢であろう。「日本の伝統、歴史を書籍で勉強してきました」と漏らした。妻と息子と一緒に日本で生活する。
「サッカー以外の文化的なものをいろいろと試したい。家族と一緒に、一般人として、いろいろな人に会いたいし、いろいろな土地も訪ねたい」
チーム作りのキーワードを聞かれ、アギーレ新監督はスペイン語で「コンプロミソ」と答えた。責任や義務、約束を守ることを意味するそうだ。武士道でいうところの「忠義」ではないか。
「2018年W杯のロシア大会には是非、出場したい。同時にユース世代の育成も図っていきたい。これは私にとって、価値あるプロジェクトです」
ことしのW杯ブラジル大会では1勝もあげることができなかった日本代表。失望の日本サッカーにあって、熱血漢のアギーレ新監督が「希望」の灯をともす。