内村航平(体操・ロンドン五輪金メダリスト)

うちむら・こうへい●1989年福岡県北九州市生まれ、長崎県出身。東京・東洋高校を経て日本体育大学に進学。2008年の北京オリンピックでは、個人・団体双方の総合にて銀メダルを獲得。09年の世界選手権で個人総合にて初優勝以来、同大会は4連覇中。12年のロンドンオリンピックでは個人総合で金メダル、団体総合で銀メダルを獲得する。現在はコナミスポーツクラブに所属。162cm、52kg。

体操の代表合宿でも、存在感は圧倒的である。メリハリのきいた演技をしたかと思えば、合間に若手選手にアドバイスを出す。「体操ニッポン」の新主将となったロンドン五輪個人総合金メダルの内村航平のことである。

主将の抱負を聞けば、「年齢が一番上なので」と25歳は素っ気ない。

「とくに主将だから、何かが変わるというものでもありません」

どちらかといえば、背中で引っ張る主将のタイプだろう。内村は2008年北京五輪(団体銀メダル)の時、冨田洋之の背中を見ていた。同じように、「コトバでなく、練習で見せられれば」と口にする。

「試合でうまくいくためには練習がすごく大事です。その練習で一番上の選手がしっかりやっていれば、(年齢が)下の選手も自然とついていくようになるのです」

頭の中には「団体が8、個人は2ぐらい」と漏らし、10月の世界選手権(中国・南寧)では団体戦優勝にかける。勝てば、世界選手権では36年ぶりとなる。内村は「自分たちの体操ができれば」と自信をのぞかせる。

ある記者が皮肉っぽい質問を重ねた。「自分たちのサッカーと言っていたチームは負けましたが。さて、自分たちの体操とは?」と。

「(サッカーとは)全然ちがうので。自分たちの強みを出した演技ができれば、絶対に一番になるのは日本だと思っています。自分たちの体操を出すためには、やっぱり練習から試合を想定してやることが大事です」

補足すれば、対人競技のサッカーは敵がいるため、自分たちのプランを実施するのは難しい。でも採点競技の体操はいわば、自分が相手だ。自分を信じ、集中すれば、おのずと自分の演技を披露することができるだろう。

個人総合では世界大会5連覇中。実績に裏打ちされた勝負哲学を持つ。振る舞いにもコトバにも王者の風格がただよう。

「若い選手がすごく増えてきています。(年齢の)下が育ってきて、ちゃんと世代交代ができている証拠ですね。すごく頼もしい存在がたくさんいます。このチームでいけば、優勝間違いなし、という感じがあります」

練習では、演技の合間に17歳ホープの白井健三に助言するシーンもあった。「力技のアドバイスをしていただけです」と照れる。

「ケンゾー(白井)は、2020年東京五輪で最大のパフォーマンスをしたいと言っている。間違いなく、日本のエースとしてやってもらわないといけない。そのためには、床、跳馬の強化が一番大事になってきます。僕も積極的に教えていこうかなと思っています」

福岡県北九州市生まれ。両親が長崎県諫早市に開設した「スポーツクラブ内村」で3歳の時、遊びのごとき体操を始めた。中学卒業と同時に朝日生命クラブに入門し、東洋高―日体大で活躍した。日体大卒業後、コナミスポーツ&ライフに入社した。

2020年東京五輪の時は31歳となる。「それまでは絶対、(現役を)やめない」という。もちろん2016年リオ五輪の金メダルも狙う。まずは10月の世界選手権。

内村は世界選手権直前の最終合宿では、代表メンバーを引き連れて焼肉店で決起集会を開く予定だという。「太っ腹」の内村が若い「体操ニッポン」をけん引する。

(松瀬 学=撮影)
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