「ママ、昨日も同じこと言ったわよね。いったい何回言えばあなたはわかるのっ」
算数を同じような問題で間違える、脱いだ靴や服がきちんと揃えられずに毎日ほったらかしになっている――。こんなわが子に、つい母親の口を突いて出るおなじみ?のフレーズだ。
「成績の伸びない子供をよく見てみると、お母さんが子供に対して言ってはいけない言葉、つまりNGワードを連発していることが多いのです。実は母親が思い及ばないほど、子供は傷つき自信をなくすのです」
こう語るのは、小学校低学年を中心とした学習塾「花まる学習会」を主宰する高濱正伸代表。相談会などで数多くの母親と接してきた経験からの言葉だ。
「『僕は何度もお母さんに同じことで叱られる、僕はできないんだ』と自分自身にマイナスイメージを持ってしまい、自己肯定感を持つことができない弱い子に育ってしまうのです」
そういう母親には、いくつかの共通したキーワードを見ることができる。専業主婦、根が生真面目、ちゃんと子育てしなければいけないと強い責任感を持っているなどなど。ではなぜそんな「よいお母さん」がNGワードを連発してしまうのか?
「一言でいうと社会だけでなく家庭の中でも孤立し、寂しさや不安をいつも抱えていて、自分では気づいていないイライラを子や夫にまき散らしているのです。問題はそれを解消してくれる相手がいないこと。夫は妻の悩みに気づいてくれないし、打ち明けても適当に聞き流すだけ。実の母親とは同居していないので、本当に相談できる相手がいない。結局イライラは無意識に子供に向けられるのです。対照的なのが、いつもニコニコほほ笑んでいる母親です。そんなお母さんの子供の成績はよく伸びるし言動が安定しています」
子育てにシャカリキになってしまうことの落とし穴だ。シャカリキとは、お釈迦(しゃか)様が人々を救うためにあらん限りの力を振り絞った「釈迦力」から使われるようになった言葉。母親はお釈迦様ではないのだから、たまにはもっと肩の力を抜いて子供や家族と接すればいいのだ。
「実の母に気軽に電話し愚痴をこぼす、気の許せるママ友をつくるなどで“心の歪(いびつ)”をなくしてください。一番いいのは夫が理解を示すことです」
理解ある夫の一例を、高濱氏はこう話す。30代半ばの会社員で、毎年1回は小学2年と幼稚園児の2人の男児を連れて1泊2日のキャンプに行くというのだ。家族の間で“男(ダン)キャン”と名付けられたこのキャンプに、妻は同行しない。この2日間は、家庭から妻を解放してあげようという夫の気遣いである。
「男キャン効果は大きいようです。まずママに完全休日をつくってあげられること、さらに、夫の思いやりを妻が感じられることです。妻はおおらかな笑顔になり、NGワードも発しません。母がニコニコなら子供の成績などすぐに上がりますよ」
そういえば古くから含蓄のあるこんな言葉が伝わっている。笑う門には福来る、と――。