ものが売れない時代だからこそ、知恵とアイデアで大差がつく。
“商売心理学の達人”酒井とし夫氏が、明日から実践できるテクニックを解説!
催眠誘導トーク:同じ内容でも伝え方次第
人は命令されたり説得されたりすることを嫌います。しかし、同じ内容を提案するのでも、相手が受け入れやすくなる催眠誘導トークがあります。
「いま、何時かおわかりになりますか?」
この質問に対する答えは本来、YesかNoになるはずです。しかしこう聞かれたら大抵の人は何の抵抗感もなく時計を確認し、時間を答えるでしょう。このような言い方を会話的要求といいますが、「現在の時刻を教えよ」と直接的に命令される場合とは受け入れる側の抵抗感が全く異なります。
私自身が「商売で成功するためにはコミュニケーションが一番大切です」と言っても「何を偉そうに……」と抵抗感を持つ人が出てきます。そういう場合は心理学で言うメタファーを使うと有効です。「レイル・ラウンデスという著名な作家は、講演で『人生で成功する85%はコミュニケーション能力で決まる』と言っています。私も講演に行くとよく経験するんですが、コミュニケーション能力って本当に大切ですね」。こんなふうに話すと、私の意見として言うのとは異なり大いに感心され、興味を持ってもらえます。
また、催眠術では「あなたはいま、私の声を聞いています。そして少しずつリラックスしていきます」というふうに「事実」と「なってほしい状態」を「そして」でつなげていきます。実はこれも命令を受け入れやすくし、相手を誘導する方法です。これを応用すると「いま、御社はこういう課題で悩んでいますね」と事実を述べ、「そしてご検討されているこの製品を導入すると、このようなメリットが得られるでしょう」と話していけばよいわけです。
わざとあいまいな表現を使い、相手に自分で言葉を補ってもらう方法もあります。私は長渕剛や矢沢永吉が好きでよく聴くのですが、彼らの歌詞はどのようにも解釈できる内容が多い。たとえば「ずっとこのまま突っ走っていけばいい」(『明日へ向かって』/長渕剛)という歌詞がありますが、「このまま」というのは何も意味していません。しかし、あえてあいまいにすることで聴き手は自分の人生にあてはめて解釈します。だから同じ歌を聴いても考えていることはみんな違うのですが、「俺のことをわかっているじゃん」と感激するのです。