番号にお金を払いたい人たち:全部揃わないと気がすまない
「無料サンプルを差し上げます」と広告を打ち、消費者に実際に使ってもらい、気に入ったら購入してもらうという販売方法があります。
私の妻もある無料サンプルを申し込み、そのまま購入するようになったのですが、それを見ていると面白い工夫がなされていることに気がつきました。
最初にサンプルでもらった瓶を見ると、一つひとつに番号が振ってありました。ただし、「1、2、4、6」というようにところどころ番号が抜けている。このようになっていると、人間の心理としては全部揃わないと気がすまなくなるのです。「きっと妻は抜けている番号の瓶を買うだろうな」と思っていたら、やはりそうなりました。人は番号にお金を払いたくなるのです。おそらくこの会社では意図して瓶に数字を振っているのでしょう。
また、私のよく行く酒屋にはワインが何百種類も並んでいますが、陳列棚に1、2本しか残っていないワインを見ると「この商品は売れているのだなあ。おいしいのかもしれない」と考えてしまいます。レンタルビデオ店ですべて貸し出しになっている作品があると「多くの人が借りているから面白いのだろう」と、見てみたくなります。
こうした心の動きには、心理学的には「同調行動」と「希少・限定の原理」が関係しています。前者は人が自分の行動を他者の言動に合わせたり、近づけたりする傾向のこと。後者は希少なものや限定されたものを手に入れようとする傾向です。要するに、残りわずかの商品があると「みんなが買っているから自分も買っておこう」「残りが少ないからいまのうちに買っておかなければ」という心理が働くわけです。
そう考えると、すべての商品が整然と揃っていることが商売として必ずしもよいこととは限りません。ときには一部の棚を空け、注文が立て込んでいる様子を見せることで、お客様にその商品が売れていることを印象づけることも大切です。