日本の素材なしに半導体はつくれない
日本企業は半導体業界でもコモディティ化した製品からほぼ撤退し、半導体チップの製造に必要な特殊材料、パッケージング材料といったバリューチェーンの川上ないしは川下へと移った。
半導体の製造・検査装置における日本の市場シェアは依然として高い。言い換えると、今日のJNCは世界の生産段階の特定の部分を席巻しており、市場シェアが100%の場合もある。他の国々は「ジャパン・インサイド」の素材なしに半導体の製造ができないということだ。
一例として、北海道の新しい半導体メーカーのラピダスは2ナノの半導体の量産を目指している。主な生産装置はオランダのASML製の極めて高度な機械だが、10社以上の日本企業がASMLに超ハイテク素材を供給しているので、製造設備も「ジャパン・インサイド」と言える。
このハードウエアの強みは、技術フロンティアのビヨンドAIなどハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)や量子技術における主導権にもつながっている。富士通のスーパーコンピューター「富岳」や理化学研究所との共同プロジェクト「富岳NEXT」は世界をリードし、現時点で最も信頼性の高いスーパーコンピューターとして広く認められている。また、富士通のプロセッサ設計チームには数十年にわたる深い技術的知見があり、世界中の半導体技術者から尊敬を集めている。
「日本は技術リーダー」と思われない理由
「ジャパン・インサイド」は「メイド・イン・ジャパン」よりもはるかに目立たない。1980年代における「品質保証」のゴールドシールつきカメラや「インテル入ってる」のシールが貼られたWindowsパソコンと違って、今日では世界中の携帯電話、ノートパソコン、自動車、電車、建物に「ニッポン入ってる」のシールは見当たらない。しかし、私たちの日常生活には日本の素材や部品が埋め込まれている。たとえば、皆さんのスマートフォンのカメラは、ブランドを問わず、少なくとも60%の確率でソニー製イメージセンサーが使われているだろう。
このようにバリューチェーンの目につかない部分に移行した結果、国内でも世界でも「日本は技術リーダーだ」とあまり思われなくなった。JNCの多くは上場している大企業で、ブランド名もよく知られているのに、消費者向けビジネスから撤退したがために、その方向転換はたいてい見過ごされてしまう。
たとえば、今世紀の変わり目には、日本人の多くはNEC製パソコンを使って毎日そのロゴを見ていたが、今日、そうした市場でNECは影の薄い存在だ。しかし、よくよく探せば、空港の顔認証機にNECのロゴがついているかもしれない。NECの技術ははるかに複雑になっているにもかかわらず、同社の事業の多くはもはや目立たなくなっている。これは有名企業が表面のブランドロゴから「インサイド」へと移った一例にすぎない。ほかの多くの企業にも当てはまることなのだ。


