転職、ゴマすり、噂話…スパイの意外な日常
このシステムを理解すれば、独断専行を繰り返すジェームズ・ボンドのような一匹狼が、現実の機関においていかに「お荷物」であるかがわかるだろう。
イギリスの元オフィサーは、映画と現実の違いを問われた際、次のようにバッサリと切り捨てている。
「ジェームズ・ボンドのような人間が応募してきても、現実の組織では最初の選考段階で即座に不合格になるか、運よく入局できても初日にクビになるか、あるいは毎日山のような始末書の作成に追われるか、そのいずれかだ」
また、エージェントはオフィサーが必死に説得して獲得するものばかりではない。自国の体制に不満を抱き、自ら情報機関の裏口を叩いて協力を申し出る人物もいる。こうした志願者は「ウォーク・イン」と呼ばれ、冷戦期から重要な情報源となることもあった。
彼らを扱う正規のオフィサーたちも、その素顔は驚くほど普通のサラリーマンだ。給料の高さに惹かれて民間コンサルへ転職した元同僚の噂話や、上司へのゴマすりで出世したライバルのゴシップに日々花を咲かせている。
秘密組織の住人とはいえ、彼らが抱える悩みや関心は、一般企業のオフィスと何ら変わりはないのである。
CIA本部にある「秘密のスターバックス」
世界中、どこの街角に行っても見かけるお馴染みのコーヒーチェーン「スターバックス」。だが、バージニア州ラングレーにあるCIA本部の敷地内にある店舗だけはわけが違う。地球上でもっとも安全管理が徹底された、極めて特殊な空間となっているのだ。
『ワシントン・ポスト』紙の取材によって明らかになったその内情は、私たちが日常的に利用している「スタバ」の常識を、根底から覆すものばかりである。
この「スタバ・CIA店」において、店員が注文時に客の名前を聞くことはNGだ。当然、カップにマジックで客の名前や親しげなメッセージを書くこともない。
それどころか、顧客データから個人の動向が追跡されるリスクを排除するため、スターバックスのポイントカードも使われていない。レシートに印字される店舗名の欄には、ただ無機質に「店舗番号1」という匿名のコードだけが記される仕様だ。

