非現実的な営業目標を設定した結果
その典型が、米大手銀行ウェルズ・ファーゴである。
同行は、既存顧客に複数の金融商品を販売する「クロスセル戦略」を重視し、営業成績の重要指標とした。現場には過大な営業目標が課された。その結果、顧客の同意を得ずに銀行口座やクレジットカード口座を開設する不正が、組織的に広がったのである。
2016年、米消費者金融保護局(CFPB)は同行に1億ドルの制裁金を科した。2020年には、米司法省と証券取引委員会などによる捜査・調査の解決に向け、同行は総額30億ドルを支払うことで合意した。司法省の公表資料によれば、銀行側は、非現実的な営業目標と経営陣からの圧力が不正を生んだことを認めている。
銀行の競争力を支えるのは、顧客の信用である。数字を伸ばすことを優先した結果、その信用を傷つけ、巨額の制裁金を払うことになった。経営学でいう「短期主義(Short-termism)」、あるいは「経営近視眼(Managerial Myopia)」の典型だ。評価指標そのものが目的化し、指標が本来測るべき価値が犠牲になる。
国家トップの誤りはだれが償うのか
企業であれば、短期主義の代償は最終的にその企業自身が払う。国家は違う。大国が判断を誤れば、その影響は同盟国と国際社会全体に波及する。
選挙に勝たなければ政策は実現できない。トランプが中間選挙を重視するのは、政治家として当然だ。しかし、国家戦略は選挙のたびに向きを変えてよいものではない。ロシアへの経済的圧力、中国への抑止力、同盟国との信頼関係。いずれも何十年もかけて積み上げてきた戦略的資産である。それを選挙対策で消費すれば、再建には膨大な時間と費用がかかる。
しかも、短期の選挙戦術としても効いているかは疑わしい。ロシアと取引しても、燃料価格が十分に下がらなければ意味がない。習近平を華々しく歓待しても、有権者が実感できる成果がなければ票にはならない。地名を変えて支持者の喝采を浴びても、国民の多数が反対しているなら費用対効果は合わない。
長期の国家戦略を損ない、肝心の短期的利益すら取り逃がす。トランプが選んだ手段は、その危うさをはらんでいる。
