じきに死ぬのに家を建てるのは無駄か

私はこの暮れで、満75歳になる。4、5年前に那須に土地を買って、そこに、去年の秋、ちょっとした2階建てを建てた。

「70いくつにもなって、土地を買ったり、家を建てたりするなんて、気が知れない」と言った人があったという。どうせ、じきに死ぬのに、家を建てたりして、無駄なことだ、と言うのである。

そういう人は、家を建てて、それから十日ほどして死んでも、その十日の間が愉しかった、ということが分からない人である。

死んだあとのことは、死んでから考えればいいと思っている。死ぬときまでは生きているのであるから、愉しいことだけを考えて、毎日を送りたいと、念願しているのである。

公園を歩く白髪の女性
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身の上相談は夫の浮気ばかり

私の担当した身の上相談の質問という質問のほとんどすべてが、良人の浮気を訴えたものばかりであった。

その中のただ一通も、「私も自分の気持ちが分からないのです。こんなにやさしい、親切な良人がいるのに、その良人を差し置いて、ほかの人に心を奪われているのです。私はいまにも、その人のところへ駆け出して行ってしまいそうで、その、わが身の心が恐ろしくて、夜も眠れないのです」と言って、自分自身の罪の恐ろしさを訴え、どうしたらその責苦から逃れることができるか、質問して来たような妻は一人もいなかったのであった。