現実問題として、若年男性の収入は減少傾向にあります。いわゆる「草食男子」はそうした経済構造の変化に対応した動きです。社会的な承認を交友関係や趣味で得ることができれば、「仕事」や「モテ」はそこそこでいい。そんな男性と、「私をお金のことで不自由させないで!」と願う女性の間に恋愛は生まれづらいでしょう。
ただ男性に比べて、女性の変化は遅いようです。現在20代の女性は、30~50代よりも顕著に「専業主婦になりたい」という人が増加傾向にあり、この点は60代に近い価値観になっています。背景には、すぐ上の世代への反発があるようです。
男女雇用機会均等法の理想と異なり、バブル崩壊以降の日本で達成されたのは「後ろ向きの男女平等」でした。若年層を中心とした相対的な賃金低下や産業構成比の変化により、女性の社会的地位が向上したというよりも男性の既得権益が低減し、共働き世帯が多数派になりました。でも、いまなお仕事と家事を完璧に両立する「できる女性」になるのは困難です。
女性には「できる」と「モテる」のバランス感覚が求められています。一方で、女性誌がモテを連呼している一因は男性にもあります。女性はこれまで経済的自立を阻まれ、結婚が最大の生存手段でした。家庭は男性にとって安らぎの場ですが、女性は「男性に安らぎを与えなければ捨てられてしまう」という覚悟で結婚生活を戦っていた。でも今後は、夫婦で生活スタイルをすりあわせる努力も必要とされます。男女ともに、「一緒に人生を戦う」という気概が求められるのではないでしょうか。
社会学者
水無田気流
1970年生まれ。早稲田大学大学院社会科学研究科博士後期課程単位取得満期退学。東京工業大学世界文明センター・フェロー。著書に『無頼化する女たち』などがある。
水無田気流
1970年生まれ。早稲田大学大学院社会科学研究科博士後期課程単位取得満期退学。東京工業大学世界文明センター・フェロー。著書に『無頼化する女たち』などがある。
(構成=西森路代 撮影=佐藤 類)