不妊治療の「内科的要因」と「外科的要因」

診療科を超えた連携を行う“センター化”は現代の医療の潮流の一つである。初代センター長に就任した谷口は、センター化の意義をこう語る。

「不妊治療には、内科的要因や外科的要因、遺伝的要因がからんでいて、他の治療と連携が求められる症例が少なくない。これまでも必要に応じてその都度連携してきましたが、センター化することで、組織としてより集学的な治療を提供できるようになります」

“内科的要因”の一例は、がんと生殖医療の連携だ。がんに罹って抗がん剤治療を受けると、卵巣や精巣に影響が出て、生殖機能が著しく損なわれることがある。

「がん治療を始めた後では妊娠が難しくなるので、治療前に生殖機能を保つ治療をします。具体的には、卵子や精子、卵巣組織などを採取して液体窒素で凍結保存をして、妊孕性を温存。がんの治療は早く始めたほうがよいため、よりスムーズな連携が必要です」

“外科的要因”には、子宮筋腫や子宮内膜症、子宮腺筋症が含まれる。

子宮筋腫は子宮の筋肉――子宮筋層にできる良性腫瘍。子宮内膜症とは本来は子宮の内側にある子宮内膜と似た組織が、卵巣や腹膜など子宮の外にできる疾患。そして子宮腺筋症は子宮内膜と似た組織が、子宮の筋肉の中(筋層)に入り込む疾患だ。こうした外科的要因を抱えていると妊娠しづらくなる。

こうした場合、手術による治療を行うという選択肢がある。

「手術療法で子宮内や骨盤内を整えて妊娠しやすい環境にするのです。ただ、手技が未熟だとかえって子宮や卵巣を傷つけて妊孕性が低下するリスクがある。適切な治療をするには、十分な技量を持った医師や設備のもと、手術療法と不妊治療を連携して行うことが望ましい」

未知の領域ゆえに新しい知識に触れられる

連携の核となるのが、高度生殖医療センターである。

そして連携の中でも一番の鍵は妊娠において必須の男性の生殖機能を扱う泌尿器科との協力関係だ。

「あまり知られていないかもしれませんが、不妊症の原因は男性要因のものも多いんです」と谷口は言う。

婦人科の中で生殖はメジャーな領域ではないことは前述した。泌尿器科における不妊治療はそれ以上だ。

泌尿器科助教の寺岡祥吾の話を聞こう。

寺岡は鳥大医学部を卒業後、泌尿器科を選んだ。泌尿器科で男性不妊を扱うことは知っていたが、表面的な知識にとどまり、実際に診察することもほぼなかったという。

そんな状況を変えたのは、現とりだい病院長である泌尿器科の武中篤教授だった。かねてから男性不妊への対応を考えていた武中は、先進的な男性不妊治療に取り組んでいる医療施設に若手医師を送り込むことにした。白羽の矢が立ったのが寺岡だった。

「男性不妊の症例をほとんど診たことがなかったので、どれだけニーズがあるのかはよくわかりませんでした。ただ、未知の領域ゆえに新しい知識に触れられるという期待感は大きかったです」

出向先は山口大学医学部附属病院だった。男性不妊治療で有名な泌尿器科教授、白石晃司のもとで25年4月から半年間経験を積み、10月にとりだい病院に戻ってきた。

高度生殖医療センターでは、女性診療科、泌尿器科、遺伝子診療科、助産師、検査技師など、多職種が連携して診療にあたっている
写真=七咲友梨
高度生殖医療センターでは、女性診療科、泌尿器科、遺伝子診療科、助産師、検査技師など、多職種が連携して診療にあたっている