不妊原因の半分は男性にある

ここで改めて男性側の不妊について紹介しておこう。

不妊のうち男性のみに原因があるケースは24%、男女とも原因があるケースは24%で、男性に原因があるケースはあわせて48%にのぼる。

もっとも多い原因は特発性、つまり原因不明で、4割以上を占めている。

「特発性は根本治療が難しいのですが、精巣は高温で機能が低下するため、サウナや長時間の入浴は良くない。また、膝の上にパソコンを置いて作業するのも、パソコンが熱を帯びるので避けたほうがいい。生活習慣を見直すことで改善する可能性があります」

次に多いのは約3割を占める精索静脈瘤だ。これは精巣から流れ出る静脈が異常に拡張して、こぶのようにふくらむ症状で、精子形成の質が悪くなる。命に別状はないが、妊娠には大きく関係してくる。1時間程度の手術で治療が可能だ。

山口大学医学部附属病院で何より刺激を受けたのは、顕微鏡下精巣内精子採取術(micro-TESE)だった。

「主として非閉塞性無精子症に対して行われる治療法です。原因不明の場合だけでなく、遺伝的・後天的な造精機能障害も対象になり得ます。精巣を開いて精子がいそうな組織を取り、顕微鏡で見ながら組織から精子を採取します」

精巣を大きく開いて内部を広範囲に探索する、ダイナミックな手術だと寺岡は言う。

micro-TESEは精巣への負担があり、繰り返し安易に行える手術ではない。初回不成功後に再手術を検討する場合もあるが、成功率やリスクを慎重に評価し、チャンスは一回のみのことも多い。日本で手術を受けられる施設はまだ少ない。寺岡が学んで帰ってきたことで、今ではとりだい病院でも可能になった。

不妊に悩む方にも何か貢献できないか

次世代の生殖医療を担うのは医師ばかりではない。助産師の松本知美は今年7月から不妊カウンセラーとして活動している。

松本は中学生のころに助産師を志し、とりだい病院に入職して夢を叶えた。

「大学病院で出産する患者さんはハイリスクな要因を抱えていることが多く、そのぶん分娩は毎回緊張感があります。でも、それを乗り越えて赤ちゃんが生まれてきた喜びを分娩室で一緒に共有できるのは助産師の特権です」

新生児
写真=iStock.com/minianne
※写真はイメージです

とりだい病院では産科の看護師・助産師も女性診療科の外来に出るため、不妊に悩む方を担当する機会は以前から多かった。処置をしながら気になっていたのはコミュニケーションだ。

「妊婦さんにはいろいろ不安にならないよう積極的に声かけしています。不妊のことで来られる方もおそらく不安を感じていて、本来なら妊婦さんと同じように声かけすべきです。でも、私に不妊の知識が足りないから、『下手に声をかけて質問に答えられなかったら、余計に不安にさせるのでは』と躊躇してしまう。それが自分でももどかしかったです」

不妊に悩む方にも何か貢献できないか。そう悩んでいたところ、師長から背中を押されて不妊カウンセラーの資格を取得した。

「不妊カウンセラーに何かを決める役割はない。求められているのは、患者さんに寄り添って不安な気持ちを吐き出してもらうこと。そう聞いて、私でもできることがあると思いました」