日本の子供の約8分の1を誕生させた生殖医療

そこで生殖補助医療(Assisted Reproductive Technology、以下ART)である。これは体外受精、そして顕微授精など不妊に対する医療である。

不妊治療は長らく、排卵のタイミングに合わせるタイミング法や、採取した精子を処理してから子宮に注入する人工授精が一般的だった。それらの治療でも妊娠しないカップルにとって希望の光となったのが、世界的に70年代末から始まった体外受精である。

「体外受精は、精子と卵子をそれぞれ取り出して体外で受精させた後に母体に戻します。ひとつの卵子にたくさんの精子をふりかけて受精を促すイメージです」

そして90年代から前出の顕微授精が始まった。

「顕微授精は一つの卵子に一つの精子を極めて細い針を使って注入して受精させます。そのため人工授精より受精率は高い。今や日本では、生まれる子の約8分の1がARTにより誕生しているほどです」

顕微授精を行っている医師
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産科婦人科では出産に関わる周産期医療が圧倒的にメジャーで、生殖医療の専門医は日本で1000人強しかいない。とりだい病院は昔から生殖医療も比較的活発だったが、それでもメジャーな分野とは言い難い。

西の米子市は熱心だが東の鳥取市には少ない

谷口が生殖医療に力を入れるようになったのは巡り合わせだった。谷口が鳥取大学医学部を卒業して研修医になった93年は、顕微授精がこれから日本で普及するタイミングだったのだ。

それから30年以上が経った。ARTの定着に手応えを感じている反面、課題もある。地域格差だ。

「生殖医療の専門医や施設は東京に集中しています。鳥取県でも(西部の)米子市は熱心にARTに取り組んでいる医療機関がいくつかあるものの、(東部の)鳥取市には少ない。そのため神戸や大阪まで治療に行く患者も少なくない」

鳥取県は東西約126km、南北約62kmと横に長い。県西部のみ、一般の不妊治療はクリニック、高度な治療はとりだい病院というように役割分担ができている。しかし、県全体ではそうではない。

鳥取県全域を高度な生殖医療で支える――。その使命を持って今年4月に誕生したのが、とりだい病院の高度生殖医療センターだ。