自閉症はひとつのキャラクター
筆者が読者として『名前のない病気』を最初から読み返すと、異様に見えた長男さんの姿も違って見える。「この妙なTシャツも、値引きしていたのを探して買ったのかな」などと、どこかいとおしく見えてくる。
険悪だった長兄と次兄の関係も変わってきた。次兄の友人がマンガのファンで「『長男さん』に会いたい。聖地巡礼したい」と言い出したそうだ。次兄はその話を、うれしそうに宮川さんに話してくれたという。
その後、兄は「自閉スペクトラム症(ASD)」の診断を受けた。現在は訪問看護を受けながら生活している。発達障害の診断を受けたことで、本人も生きやすくなった印象があると宮川さんは言う。
「思い返してみると、兄はずっと『何でわしばっかり、こんな人生なんや』みたいに、大声で言っていたような気がするんですよね。自分を振り回してきたものの正体が、時代を経てわかって、今はいきいきしていますね。『わしは発達障害だから、部屋も片付けられなくてな。ガハハ』みたいな(笑)。この人は、自分のキャラを見つけたんだな、と思いました」
兄がいない人生は考えられない
「今は兄とめちゃめちゃ仲がいい」という宮川さん。
「僕は、物事を客観的に見る癖があるんです。すると、いつも『ドラゴンボール』に出てくるシェンロンのような神様が出てくるんです。僕は母が亡くなったとき、身体がもげるほど悲しかったんですが、今その神様に『母を生き返らせてあげよう。その代わり、今のお前の生活はなくなるが良いか』と聞かれたら『あ、じゃあいいです』となるんです。
今が一番価値があると思っているので。それと同じで『兄がいない人生にしてやろう。ただし、今のお前はいないぞ』って言われたら『あ、兄ちゃん置いといてください』ってなると思うんですよね」
読者からの感想には「実はうちにも引きこもりの兄弟がいて……」と身の上話が書かれていることが多いという。それは『名前のない病気』で描かれているのが「特殊な家族」ではないことを表しているのではないか。すべて状況が同じではなくても、家族やきょうだいへのままならない感情に共感する人が多いのだろう。
「病院にぶち込んどけよ」。そう言って割り切れる人にとっては、家族に向き合おうと奔走する姿は滑稽に見えるかもしれない。でも、家族とはそんなものだろうか。
面倒だが、割り切れない。「好き」とは違っても、愛されたいし、愛したい。傷つけられても、見捨てられない。家族でいることを諦められず、もがいてしまう。宮川さんがマンガに描いたのは、そんな“普通”の家族の物語なのだ。
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