初めて気づいた会社員としての「地味な力」
私は、人を惹きつける特別な話術を持っていたわけではありません。人前に出るのも、自分を売り込むのも苦手でした。それでも読書会では、参加者が話しやすいように声をかけ、話を最後まで聴き、質問の意図をくみ取り、相手の反応に合わせて説明の仕方を変えていました。
どれも、読書会のために新しく身につけた能力ではありません。会議で発言しにくそうな人に話を振る。電話口の言葉から、相手が本当に困っていることを考える。立場の違う人の間に入り、話をまとめる。会社員として働くなかで、知らないうちに繰り返してきたことでした。
もう一つ、私を支えたのが継続力です。講座の課題を期限までに出す。人に会ったらお礼を伝える。うまくいかなければ、やり方を少し変えてもう一度試す。会社では「できて当たり前」と見過ごされてしまうような小さなことを、一つずつ続けました。
500円は、私に特別な才能があることを証明したのではありません。会社の中では価値に気づかなかった「普通にできること」が、場所を変えれば誰かの役に立つと教えてくれたのです。新しい能力を手に入れたから、裏OLになれたのではない。会社員として積み重ねてきたものを、会社の外でも使ってみた。その小さな発見が、次の扉を開いてくれました。
資産ゼロなのに7500万円のアパート購入
マネーセミナーの懇親会に通ううち、地元の経営者たちと知り合いました。華やかな人脈づくりをしたわけではありません。相手の話を聴き、分からないことを教えてもらい、次に会ったときにその内容を覚えている。そんな会社員時代からのコミュニケーションを重ねるうち、地元の経営者の一人から、突然こう勧められたのです。
「アパートを一棟、買ってみたら?」
価格は7500万円。資産ゼロに近い地方の会社員が、人生で扱ったこともない金額です。普通なら、「無理です」で終わっていたでしょう。それでも決断できた背景には、退職金300万円を預けていた投資信託、セミナーや読書会で得た人とのつながりがありました。そしてなにより、最大の力になったのが、毎月安定した収入がある「会社員」という肩書でした。
会社員としての信用があったからこそ、ローンを組み、大家業を始めることができた。私を縛るものだと思っていた会社が、会社の外へ踏み出すための足場になったのです。「会社を辞めない」という選択が、むしろ挑戦を可能にしてくれました。
次に始めたInstagramは、もっと手探りでした。ぎこちない自撮り、食べ終わった手羽先の骨の写真。友人には「独特な世界観だね」とあきれられました。発信のセンスがあったわけではありません。それでも、反応を確かめ、投稿を修正し、コメントや相談にはできるだけ丁寧に応えることを続けました。1年後にはフォロワーが1万人を突破し、運用法を教えてほしいという声が集まり、生徒は100人を超えました。講師やコンサルタントという仕事は、特別な才能からではなく、目の前の人とのやり取りを重ねた先に生まれたのです。



