タワマン住民3000人を納得させる方法

――実際に橋本さんは、一戸あたり約150万円の支出で、初回の大規模修繕をリードして実行されましたが、担当理事、さらには4年間、理事長を務めて、何に注力されましたか

「それはもう、合意形成に尽きます。うちの理事会は15人の理事で運営しています。15人の理事を、修繕にかかわる『施設』グループ、居住者の『コミュニティ』形成のグループ、お金の勘定を担う『財務』グループの3つに分けて、それぞれが執行機関として活動しています。ただし、すべての議案に関して、理事会で理事が全員一致しないかぎり、先には進めないルールにしました。15人がまとまらないと、3000人の住民を納得させるなんて、到底できませんからね」

――3000人の共同体を15人の理事が導くわけだ

「わたし自身は、これまでに培った超高層の設計や、管理のノウハウをすべて注いで、大規模修繕の『工程表』をつくりました。これは、みなさんの意見を反映して10回ぐらい書き直した。この工程表が3000人の合意を維持していく基盤の一つです。工程表を見れば、いつ、何をするか一目瞭然、進捗状況をリアルタイムで把握できます。外壁の修繕工程がメインですが、そのほかの設備の更新も含んでいることが重要なんです」

掲載した「大規模修繕工事 実施工程《課題の整理》」が、橋本氏が全住民の心をつなぎとめた連結器だ。

【図表】大規模修繕の工程表
出典=『マンション 狙われる修繕積立金』(平凡社新書)

工程表には、まず、理事会、各委員会、(賃貸者も含む)居住者、(区分所有者の)管理組合員がどの時期に何をするかが、横軸の時系列に沿って記されている。

その下に、外壁の大規模修繕について、基本設計から実施設計、業者の選定、着工、竣工とプロセスが並び、それぞれのタイミングが時系列で記入されている。

確かに、この図を見れば、大規模修繕の全貌が把握できる。

さらに外壁の修繕もさることながら、目を引くのは下段の〈修繕工事(大規模除く)〉の項目である。ここに内装(照明)、エアコン、植栽、防犯については、〈大規模修繕工事を待たずに実施すべき工事〉と記され、先行して実施されている。

タワーマンションの特殊な設備を更新していくうえで、この一行は大きな意味を持つ。

照明のLED化で年間5000万円節約

――ひと口に設備の更新といっても、タワーマンションの場合、共用部分の空調や、エレベーターとか、複雑ですよね。それらは、外壁の補修とは別に進めなきゃいけない、ということを〈修繕工事(大規模除く)〉で表記しているのですね

「はい。そうです。じつは、外壁の大規模修繕よりも設備の更新のほうが大変なんです。たとえば、防災のインターフォンや、共用部の換気扇などは数が膨大です。1個1万円の機器でも、2万個のオーダーになれば2億円かかります。ですから設備の更新は、修繕費用の貯まり具合を睨んで、他の工事との重複を避けたりしつつ、一つずつ技術的にも検証しながら進めます。機器の点検と更新はひとくくりで考えたほうがいいですね」

――確か、橋本さんのマンションでは、共用部の照明のLED化が、その後の修繕計画を立てるうえで大きな意味があったとお聞きした記憶がありますが……

「ええ。従来の白熱灯の照明では、共用部だけで、年間一億円以上の電気料金を費やしていたんです。これを一挙にLEDに替えると、電気代を半分程度に抑えられると試算でました。すぐにでもLED化したいと思いましたが、どのメーカーのLED製品を使うかでひと悶着あったんです。業者の選定でね。住民のなかには電機メーカーや、光学機器会社、量販店の役員や学識経験者がごろごろいます。それぞれの“専門家”が、この商品がいい、あの商品を使ってほしい、品質には自信がある、と言いだしたんです」

――それは大変だ。百家争鳴の状態ですね。下手な対応をしたら、あなた自身が癒着しているとか、袖の下をもらっているのではないか、と疑われますよね。どのようにして、LEDを選んだのですか

「最初に、あれがいいとか、これはダメだとやったら大ごとになります。ですから、推薦したいLEDがある方は、全員、申し出てください、と全方位で受け付けたんです。住民の推薦で10社ぐらいの製品がリストアップされました。一方で、わたしは『与件(解決すべき課題の前提条件)書』をつくりました。新しくとりつけるLEDに必要な機能、デザイン、価格帯の条件を綿密に記述したんです。とくに色温度と調光にこだわりました。一階のエントランスは、ぬくもりのある特殊な色温度の照明を使っています。色温度とは、光源が放つ光の色を数値で表したものです。その色温度のLEDでなければふるい落としました。さらに調光ができるかどうか。調光ができるLEDは、一つだけでした。それで決まりです」