「全部買って、全部商品にして、全部売る」

一方、「売り方」の変革において松本が行った最大のことは、販売計画の作成をやめたことである。旧カルビーは全国の営業所から膨大なデーターを収集し、それを分析して、精緻な販売計画を立てることを恒例としていた。その販売計画をベースに翌年の生産計画を立て、生産計画にのっとって原料を調達していた。

なぜ、そんなことをやっていたかといえば、値引き販売をよしとしなかったからである。まったくしなかったわけではないが、販売価格を下げないことによってブランド価値と利益を維持するというのが旧カルビーの考え方だった。

こうした考え方の企業にとって一番怖いのが、作りすぎだ。作りすぎたら廃棄か値引きしかない。だから、精緻な販売計画を必要とした。しかしこの考え方は、奇妙な現象を引き起こした。松本が言う。

「創業家と話していたら、うちは豊作貧乏なんだよとおっしゃる。ジャガイモが豊作だと儲からない、不作だと儲かるというんです。なぜなら、豊作で販売計画からあふれてたジャガイモは、ポテトチップスに加工しないでフレークにして売るというんだね。そうなったら売価はガタ落ちだから、豊作貧乏というわけです。こんなおかしな話はないでしょう」

そこで松本は、あっさりと販売計画づくりをやめる。買えるジャガイモは全部買って、全部商品にして、値引きをしてでも全部売るという、極めてシンプルな方針に転換したのである。

「1年先にどれだけ商品が売れるかなんて、いくら予測したって当たるわけがないんです。僕ら頭悪いんやから、そんな難しいことはやめなはれと。ともかくジャガイモを全部買って、全部商品にして、全部売ろうと、こういうことですよ」

松本の売り方は、結果がすべて。たくさん売れば、たいがいの問題は解決できる。たとえ値引きをしても、たくさん売ればカバーできてしまう。

この方針転換を、カルビーの営業マンたちはどう受け取ったのだろうか。営業本部広域販売部部長、臼井大二が言う。

「以前のカルビーの営業にとって最も重要なことは、店頭鮮度を維持することでした。常に鮮度のいい商品を店頭に並べるにはどうすべきか、結果よりも売るプロセスを重視していたのです。プロセスがよければ結果はついてくる、という考え方でした」