実を言うと、松本が「全部買って、全部商品にして、全部売る」に方向転換した理由は、もうひとつある。

「二番手の会社に比べて、カルビーの製造原価率は異常に高かったんです。売り上げの規模は3倍あるわけだから、普通なら1割、2割低くて当たり前なのに、カルビーのほうが7%も高かった。これはどう考えてもおかしい」

売上高を100とした場合、カルビーの製造原価率は65。販管費が32で、利益はわずかに3ポイント。一方、二番手企業の製造原価率は58ポイントだった。

「昔のことはいいから、製造原価率を50にしようと。販管費は30だと。研究開発に5使っても、残りは15。これがグローバルスタンダードなんだから、これを目標にしようよと言ったわけです」

製造原価率というと、変動費(原材料価格や燃料費)の関数と考えがちだが、実は工場稼働率の関数でもある。工場の稼働率が上がって生産量が増えれば、単位当たりの固定費(人件費や設備の減価償却費)の比率は下がっていく。これも、製造原価率の低下にほかならない。

「09年当時の工場稼働率はすごく低くくて、60%くらいしかなかった。だから、製造原価率が高かったんです。メーカーの経営者というのは工場稼働率と固定費の関連性を意外に知らなくて、ヘボな経営者ほど変動費をいじりたがるわけ。でも、工場稼働率が上がれば固定費の比率がドンと下がる。原料もたくさん買うから仕入れのコストも下がる。工場稼働率が上がると会社全体のコストにものすごくいい影響があるんです」

だからこそ、「全部買って、全部商品にして、全部売る」なのだ。松本はともかくたくさん作ることによって工場稼働率を引き上げ、製造原価率を引き下げ、利益率を引き上げた。売上高が30%しか増えていないのに、純利益が3倍近く増えたことは冒頭で示した通りである。

(文中敬称略)

(伊藤千晴、牧田健太郎=撮影)
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