「緑を増やそう」という政府

ドイツは冬が寒いので、家屋は元々、暖を逃がさないように作られている。だから、壁の厚い古い建物の場合、最初の何日かは窓もブラインドも閉め切って、外の暑さが入ってこないようにして対処するが、それにも限界はある。

いずれ熱気は入り込んで、夜も温度が下がらなくなる。特に、最上階に住んでいる人は、室内の気温が40℃近くになり、シャワーを浴びた後、心地よく冷えた部屋でホッと一息もなし。家庭のエアコンの普及率は4%と言われる。そういえば、私の知り合いはベランダに簡易ベッドを出して寝ていた。

ただ、本当に猛暑のせいで1万5000人も死者が出ているなら、政府は直ちに、即効性のある対策に取り掛かるべきだろう。つまり、とりあえずはエアコンの整備だ。

ところが、対策本部が掲げるのは、都会の緑地帯を増やそうとか、猛暑日の労働時間を制限する法律を作ろうとか、あまり緊急性が感じられない。

もし、日本政府が、“熱中症予防のために、皆で窓際にヘチマを植えましょう”と言ったら、皆、怒るのではないか。

なぜエアコン設置に消極的なのか

ただ、ドイツ人は元々、エアコン設置には積極的ではない。ドイツ人は新しいものに対して、懐疑的なのだ。

まず、多くの人がエアコンは体に悪いと思っている。単に人工的な冷気を敬遠している人もいれば、悪いバイ菌が部屋中に循環して病気になると恐れている人もいる。

ただ、エアコン不健康説と1万5000人の熱死者の話は整合性に欠ける。

また、借家の場合、壁に小さな穴を開けるにも、室外機を置くにも、大家さんの許可が要ったり、それどころか、室外機は景観や騒音の問題が発生したりと、エアコン設置のハードルが高いということもある。

そのため、最近では、昔のラジオのような形状の、部屋に置くだけのクーラーなどというものも売られているが、効き目のほどは不確か。しかも、怪しい商品も出回っているらしく、消費者センターが警告を出したりしている。

一方、政府が消極的なのはグリーン政策に拘っているからだ。ドイツ政界は、すでに左派イデオロギーに乗っ取られており、エアコンという“安易な”対処療法よりも、温暖化の元凶であるCO2を減らすべきだという方針は揺るがない。

もっとも、それは建前で、本当はエアコンの普及で電力網が決定的に破綻することを恐れているという見方もある。ドイツは原発を止めて以来、恒常的に電気が足りないため、これ以上、電力事情を危うくするわけにはいかないのだ。だから、現在は妥協案として、病院、老人ホーム、学校、公共施設などには優先的にエアコンを設置するという方向で進んでいる。

なお、脱炭素政策の旗振り役である緑の党は、「猛暑になっているのはCO2のせいなのに、エアコンでさらにCO2を増やすなど本末転倒である」として、CO2の制限をさらに厳格化するよう要求している。ただ、ドイツのCO2の排出量は世界全体の1.5〜1.8%なので、その増減が地球の温度に多少なりとも影響を与えると彼らが本当に信じているのかどうか、そこらへんがよくわからない。

さて、では、この「熱死1万5000人」とは何を意味するのか?