若者を呼び込んだ「銭湯入門」という発想
湊さんが心血を注ぐ梅湯は、どんな場所なのか。
京阪七条駅から歩くこと約7分。遊郭の面影を残す街並みのなかに、可愛らしくポップな「サウナの梅湯」の電飾看板が見えてくる。暖簾をくぐると、年季を重ねながらも手入れの行き届いた、昔ながらの銭湯空間が広がっていた。
ロビーには手ぬぐいやTシャツ、缶バッジなどが並び、京都や関西のアーティスト、工房、メーカーとのコラボ商品も目を引いた。
大きな窓から光が差し込む浴室には、昔ながらの浴槽に加え、ガラス張りのサウナや京都の地下水を使った水風呂が備わっている。浴室の壁にはスタッフ手書きの新聞が貼られ、湯船につかりながら熱心に目を通す客の姿もあった。
昔ながらの銭湯の姿を残しながら、初めて訪れる人も入りやすい。現在の梅湯は、そんな場所になっている。その背景には、湊さんが銭湯のハードルを下げるために重ねてきた工夫があった。
「梅湯のコンセプトは、『銭湯入門のための銭湯』のようなものでした。若者にとって、銭湯はハードルが高く、よく分からない場所だったと思うんです。気軽にのれんをくぐれる場所にして、梅湯をきっかけに地元の銭湯にも行ってもらえれば、と考えていました」
入り方が分からない。常連客が怖い。自分が入ってもよい場所なのか不安がある。そうした心理的なハードルを下げ、梅湯を知ってもらうため、湊さんは近隣へのポスティングやSNSでの発信に加え、メディアからの取材依頼も積極的に受けた。
なかでも反響が大きかったのが、若者向けのファッション・カルチャー誌『POPEYE』への掲載だった。当時、リニューアル後の同誌が若い読者から注目を集めていたこともあり、記事をきっかけに京都市内のほかの地域や東京からも客が訪れるようになった。
こうして梅湯は、若い世代も日常的に通う銭湯へと変わっていった。
入浴料を上げられないなら…
さらに店づくりにも手を入れた。初めて訪れる人でも入りやすく、居心地よく過ごせるよう清掃を徹底。シャンプーやボディソープ、ドライヤーを無料にした。外から店内の様子が見えるよう入り口を改修し、ロビーもくつろげる空間に整えた。
また、ファッションや音楽に関心を持っていた湊さんは、京都のショップ「VOU/棒」と共同で、銭湯をテーマにしたイベント「Get湯!」を開催。販売したアイテムが若い世代から予想以上の反響を呼んだことを受け、梅湯でもTシャツや手ぬぐい、キーホルダーなどの制作・販売を始めた。やがてグッズ自体が梅湯を訪れる目的となり、入浴せずに商品だけを購入して帰る人も現れた。
さらに梅湯では音楽ライブも開催し、青葉市子さんやplentyの江沼郁弥さんらが出演した。ライブを目当てに、それまで銭湯と接点のなかった人たちも足を運ぶようになった。
湊さんは、音楽やファッションを入り口にすることで、梅湯を、幅広い人が訪れる場所へと変えていった。ライブを見る、グッズを買う、人に会うといった新たな過ごし方が生まれ、梅湯そのものに愛着を持つファンも増えていった。
こうした取り組みは、新たな客層を呼び込むだけでなく、入浴以外の売り上げを生み出す道も開いた。
そもそも銭湯は、入浴料の上限が都道府県ごとに定められており、店側が自由に価格を上げることはできない。音楽ライブやグッズ販売などは、梅湯にとって新たな収入源となった。なかでもドリンクを含む物販は、売り上げの約20%を占めている。



