なぜ先進国の中で「格差」が生じたのか

1800年代初頭に工場生産が始まると、繊維業の熟練労働者たちが自分たちの仕事を奪いつつあった工場の機織り機械を破壊する運動(ラッダイト運動)が起きた。1世紀前には、電話をかけるたびに、電話交換手が手動で交換台を操作していた。1930年代か1940年代の映画に出てくるような交換台だ。

いまでもそんな交換台を使わなければならないとすると、アメリカでは3000万人の交換手が必要になる。しかし、近代的な電子交換機が登場しても賃金は下がらなかった。以前の雇用が、もっと高いスキルを備えもっと高い給料を支払われる労働者におきかえられたからだ。

事実、長期的に見ると、農業用トラクターや工場用織機、電子交換機は生活水準の向上に不可欠だった。こうした発明が、一般の人々の手に入るあらゆる商品を生み出し、さらには人々を肉体労働から解放し、より高度な技能を要する雇用へと引き上げたのだ。

私たちは、テクノロジーが主要な要因ではありえないとわかっている。すべての先進国が同じテクノロジーを利用しているのだから。にもかかわらず、日本では賃金がまったく上がらないままで、イギリスでは生産性を上回るペースで上がっている。

労働者に政治力がある国、ない国

すでに2001年時点で、のちに国際通貨基金(IMF)のチーフエコノミストになるオリヴィエ・ブランシャールは、賃金を抑制しているのはテクノロジーでなく政治だと論じていた。つまり、雇用主の政治力に比較して労働者の政治力が低下しているのだ。

この現象はOECD加盟国の大半で見られるが、日本とアメリカで最も深刻だ。日本では、1960年から1975年にかけては従業員の3分の1が労働組合に加入していたが、現在では組合に加入する従業員はわずか16パーセントだ。

他の国では、労働組合との結びつきが強い政党がそれ以外の政党と交替で政権を担ってきた。そのような状況は日本ではなかなか起きない。例外は2009年から2012年にかけて短期間、民主党が政権についたときだけだ。賃金の上昇が生産性の上昇を上回っている4カ国のうち3カ国がスカンジナビア諸国で、これらの国では労働党が大きな政治力を握ってきた。

日本の賃金問題には終身雇用もかかわっている。