生産性向上の恩恵は企業がひとり占め
ここ数十年にわたり賃金が抑制されてきた先進国はけっして日本だけではないが、日本のケースは最悪だ。
1995年から2024年にかけて、平均的な労働者が生み出す1時間あたりGDPが40パーセント増えているにもかかわらず、1時間あたり(物価調整後)実質賃金は30年前より2パーセント下がっている(図表1を参照)。企業が余剰金を留保してきたからだ。
このため、GDPに占める経常利益の割合は、1994年の5パーセントから2025年なかばには18パーセントと爆発的に伸びている。
さらに悪いことに、企業はこうして得た利益で投資を増やして経済を潤そうとはしない。利益は帳簿上積み上げておくだけであり、長いあいだ休閑地にされたままの農地も同然だ。
賃上げされたのは一握りの人だけ
一部の人は、賃金問題は現在解決されつつあると主張し、2024年と2025年の春闘で名目賃金が大幅に引き上げられたことを指摘する。だが、それは事実ではない。
一つには、春闘に参加しているのは労働者の16パーセントにすぎないからだ。残りの84パーセントの労働者は、これほどの賃上げを得られなかった。
さらに重要なことは、賃金は上がったものの、物価の上昇に追いついていないことだ。その結果、物価調整後の時間あたり実質賃金は2024年と2025年の1月から8月までの期間を通じて低下の一途をたどっている。物価上昇を上回るペースで賃金が上がるようになるのか、上がっていくならいつなのかは、まだわからない。
健全な経済では、労働者の生産性が向上すれば、市場の力によって長期的には賃金が上がっていく。1時間あたりの生産量が2倍になれば、賃金も2倍になるはずだ。
日本の経済学者、宇沢弘文が1961年に証明したとおり、生産性に伴って賃金が上がらなければ、あらゆる面でマクロ経済が不安定になる。または、企業は生産したもののすべてを売ることができなくなる。日本が抱えているさまざまな病――低い成長率とデフレ、慢性的な財政赤字、銀行危機、さらには弱い円まで――は、このような症候群の典型的な症例なのだ。

