アメリカが報じた「若い投手を壊す日本野球」
アメリカでは1974年に最初のトミー・ジョン手術(ひじ内側側副靭帯再建手術)が行われ、成功を収めて以降、登板過多と肩、ひじの故障の因果関係が研究され、90年代には青少年世代の野球での「球数制限」論が活発になっていった。
しかし日本では、整形外科医や一部指導者の心配をよそにエースが「腕も折れよ」と投げる野球のスタイルが21世紀以降も続き、メディアもそれを称賛していた。
こうした状況に変化が生じたのは、ようやく2013年になってからだ。この年春の甲子園で、愛媛県の済美高の2年生エース安樂智大は、1回戦から決勝までを投げぬき、延長13回を含む5試合46回を投げ、球数は772球に上った。
これを問題視する声を挙げたのは海外メディアだった。米野球専門誌のベースボール・アメリカが「世界で最高の16歳投手の1人だが、正気のさたではない球数」と報道したのだ。
続いてCBSスポーツ電子版も「過酷な負担だ。成長途上にある16歳であれば、なおさら」と指摘した。さらに米 Yahoo! スポーツ記者のジェフ・パッサンも「若い投手を壊す日本野球の信念」と題し、日本の高校野球に批判的な記事を執筆した。
日本独自の異様な文化
これら米報道をきっかけとして、日本のメディアも「過酷な登板」について言及するようになった。安樂の済美は準優勝に終わったが、春の甲子園を主催する毎日新聞記者の新井隆一は、決勝後の大会講評で「16歳の投手が3日連投を含む5試合で772球投げたことは、未完成の肩肘を壊す懸念もあり、その是非も論議を呼んだ」と投手の健康問題に言及した。
米メディアの報道はなおも続いた。米スポーツ専門ケーブル局「ESPN」は5月に愛媛まで足を運び、済美高と安樂を取材。日本独特の高校野球文化と球数に対する考え方をテーマに、特集番組を制作した。番組では“Nagekomi(投げ込み)”や“Kaibutsu(怪物)”といった、日本野球特有の文化を紹介した。
この時期に、米のメディアが日本の高校生の登板過多にここまで注目したのは、アメリカでも少年投手の「酷使」が問題化していたからだ。MLBはこの直後に22歳以下の投手の球数制限である「ピッチスマート」を導入していた。
