父から受け継いだ、経木納豆
数ある商品のなかでも、野呂さんが特に思い入れをもつのが「手づくり小粒」。
茨城県産の極小粒大豆を使い、経木で包んだ昔ながらの納豆だ。一つひとつ手作業で包むため手間がかかり、現在ではほとんど見かけなくなった。それでも、野呂さんには外せない理由がある。
「経木が水分を吸ってくれるので、納豆が水っぽくならず、蒸発がうまくできます。木を一枚入れるだけで、納豆の味が濃くなったような、全体にしまった食感になるのです」
そして、こう続けた。
「父がつくった納豆の原点。これは、どうしても外せません」
安売りしなかった納豆が、世界へ
品質にこだわり続けたことで、新たな活路も開けた。海外展開だ。
きっかけは2015年、中国・大連の企業から取引を持ちかけられたことだった。2017年には初めて海外の展示会に出展し、香港の「シティスーパー」との商談が成立した。数ある日本のメーカーのなかから鎌倉山納豆が選ばれた理由は、商品の品質、何よりその「おいしさ」だったという。
「香港ではすごく評判がよかったです。日本と同じ包装で売れるのも、やりやすくて」
コロナ禍以降は、世界的な健康志向の高まりや日本食ブームも追い風となった。取引先は少しずつ増え、2026年現在、中国、香港、台湾、シンガポール、アメリカ、イギリスの6カ国・地域へ輸出している。海外売上は全体の約5%を占めるまでになった。
国によって食品規制が異なり、賞味期限の短い納豆を輸出する難しさもある。それでも同社は、海外売上を10%まで伸ばすことを目標にしている。
40年の品質が「日本一」に
海外で評価されたのも、安さではなく、長年守ってきた品質だった。その歩みは2022年、一つの大きな結果となって表れた。
全国納豆鑑評会で、同社の商品「鎌倉小粒」が最優秀賞の農林水産大臣賞に選ばれた。鎌倉山納豆は、ついに「日本一の納豆」に認められた。
全国納豆鑑評会は、全国から約100社が出品する納豆業界最大級の審査会だ。研究者や文化人、省庁関係者など約30人の審査員が、ブランド名を伏せた状態で試食し、見た目や香り、粘り、味わいなどを評価する。まさに「納豆のワールドカップ」とも言える一大イベントだ。
鎌倉山納豆は、過去にも特別賞や優秀賞を受賞してきたが、最優秀賞はこのときが初めてだった。
受賞した「鎌倉小粒」は、国産大豆を100%使った小粒納豆で、力強い粘りと糸引き、雑味のない味わいが特徴だ。長年培ってきた製造技術の集大成ともいえる商品だった。
安さを競うのではなく、自分たちの技術を磨き、その価値を守り続けてきた。その40年の積み重ねが「日本一」という形で実を結んだのだ。
対話が生んだ縁
野呂さんは、会社の代表を30年務める一方、全国納豆協同組合連合会でも役職を歴任し、2013年から12年間は、会長として納豆業界を牽引してきた。
長年大切にしてきたのは、相手とよく話し、本音を出し合うことだった。
「みんなでとにかく気心が知れるまで、よく話をする。それから本音を言い合って、どうするのが一番いいかを決めたら、そっちへ向かってみんなで協力していく。そういう道筋を立てて、先頭で旗を振っているような役割が多かったと思います」



