同じ追い風でも、加速度が違う
3階微分の躍度は、加速度そのものを変える引き金と考えるとわかりやすい。
いま世界経済を動かす最大の躍度の一つが、生成AIの急拡大である。大規模モデルの学習には膨大な演算能力が必要となり、サービスが普及すれば推論需要が積み上がる。エヌビディアがGPUを設計し、TSMCが先端プロセスで製造し、SKハイニックスやサムスン電子がHBM(広帯域メモリー)を供給する。さらに先端パッケージング、データセンター、クラウド、AIサービスが一つの巨大な産業連鎖をつくる。
重要なのは、同じ外部衝撃を受けても、すべての国が同じように加速するわけではないことだ。自国企業が価値連鎖のどこにいるか。供給能力をどれだけ早く増やせるか。顧客の設計や需要情報にどこまで接続しているか。これらによって、AIという躍度が国内産業の加速度へ変換される割合が違う。
韓国と台湾はAI需要の増加が半導体輸出へ直結する位置にいる。日本にも追い風は届いている。しかし、その果実の取り込み方が違う。なぜか。
ここで議論を単純な日本悲観論にしてはならない。
日本は半導体産業のすべてで競争力を失ったわけではない。東京エレクトロン、アドバンテスト、レーザーテック、SCREENホールディングス、ディスコなど、半導体製造装置や検査・計測で高い競争力を持つ企業がある。素材でも、シリコンウエハー、フォトレジスト、半導体用ガス、研磨材など、世界の供給網に不可欠な企業が少なくない。
日本は装置で圧倒的に強いが…
2026年上半期の半導体製造装置の輸出額は、日本150億ドル、韓国52億ドル、台湾35億ドル。日本は依然として、半導体を「つくるための技術」で強い。ところが、同じ期間の集積回路輸出は、韓国1490億ドル、台湾1332億ドルに対し、日本は212億ドルだった。韓台では集積回路が輸出全体の約3割を占めるが、日本は5%程度である。
AI・半導体の価値連鎖を大きく3層に分けてみよう。
表層には、OpenAI、Anthropic、Google、MicrosoftなどのAIモデル、クラウド、アプリケーションがある。中間層には、エヌビディアの設計、TSMCの先端製造、SKハイニックスやサムスン電子のメモリーなど、AI向け半導体がある。深層には、半導体を製造する装置、素材、精密部品がある。
米国は表層と設計を握り、台湾と韓国は中間層の量産を握り、日本は深層で不可欠な技術を握る。日本の強みは決して小さくない。装置や素材がなければ先端半導体はつくれず、半導体がなければ生成AIも動かないからだ。
しかし、「不可欠であること」と「成長市場が生み出す価値を広く取り込むこと」は同じではない。ここに、日本の産業構造の核心がある。

