子にとって交通費や手土産代は「重い負担」
さらに、ここ数年の止まるところを知らない住宅価格の高騰が追い打ちをかける。わざわざ指摘するまでもないとはいえ、あらためて確かめておけば、都市圏、特に、東京23区のマンション価格の高騰は、バブル期を上回る。不動産経済研究所の調査によると、2025年の新築マンション1戸当たりの平均価格は1億3613万円と、過去最高を更新した。
国立国会図書館・調査及び立法考査局国土交通課の大島優果氏のまとめによれば、それは、建築費の高騰や、国内外の富裕層や投資家による積極的な購入など「複数の構造的な要因により生じている」。
孫の顔を祖父母に見せに帰る前に、子ども世代は、高くなる一方の住宅に、なんとかやりくりをして住んでいる(人も多い)。大島氏が指摘する「共働きのパワーカップル」によるマンション需要の増加があるものの、「夫婦ともに年収700万円以上の世帯」は、45万世帯で、共働き世代に占める割合は2.9%である。
東京(圏)に人が集まっている一方で、23区内にマンションを購入できる所得層は限られている。さらに、物価高も止まらない。年収は増加傾向にあるといっても、生活環境が向上しているとは、なかなか言いがたい。
こんな状況において、近いところに住んでいる祖父母世代のもとに帰省するとなっても、なかなか意欲は湧きにくい。家計に余裕がないため、交通費や手土産など帰省の負担も重く感じられる。共働きで住宅ローンを抱える家庭ほど、休日そのものが貴重になる。いや、せめて前向きになれるとしたら、孫の面倒を見てもらったり、あるいは、お小遣いをもらったりする、実利面でのメリットを期待しているのかもしれない。
日本人の「移動離れ」が起きている
加えて、「移動そのもの」が日本人の生活から減っている。日本人全体での「旅行」への意欲低下が指摘されているのである。日本観光振興協会が毎年行っている「国内宿泊旅行への参加希望率」は、令和5年度(2023年度)には58.1%だった。東日本大震災の起きた平成23年度(2011年度)の81.9%から長期の下落傾向が続いており、コロナ禍前の令和元年度(2019年度)に61.1%、その翌年には54.3%まで落ち込んだ。
社会学者の山口誠氏が注目する通り、2025年の日本のパスポート保有率は18.5%と、英国(約60%)や米国(約50%)とは比べようもないほど低い。
旅行と帰省は違う。けれども、日本人は都道府県間の移動もせず、旅行もしなくなりつつある。そこには、上記のデータで見たように、都市部に人口が集まり、そのなかで「帰省」する、そんな傾向が見えてくるのではないか。

