大陸間弾道ミサイルの発射、日本近海での射撃訓練……中国による大胆な軍事演習が頻繁に報じられ、アジアに波紋が広がっている。
米中関係からも目が離せない。北京で行われた5月半ばの米中首脳会談では、習近平国家主席は台湾問題に関し、ひときわ強い言葉でトランプ大統領をけん制した。
「中国は10年前より、はるかに危険な存在になった」
こう警鐘を鳴らすのは、米ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究院特別教授のハル・ブランズ氏だ。国際政治の専門家たちの話題をさらった『デンジャー・ゾーン 迫る中国との衝突』(マイケル・ベックリー共著、奥山真司訳、飛鳥新社)の著者でもある。
中国はなぜ「今」、周辺国への威圧を強めているのか。近い将来、台湾統一に踏み切るのか。有事に備えて日本は何をすべきか? ブランズ教授に話を聞いた。

――『デンジャー・ゾーン』に、中国は自国の立場が弱まると「暴力的になる」と書かれています。

中国は10年前より、はるかに危険な存在になった。主因は2つ。まず、(他国への圧力や威嚇という)「強制力」が高まったことだ。台湾封鎖を見据え、軍事力を絶えず増強している。

ハル・ブランズ氏
ハル・ブランズ Hal Brands
ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究院(SAIS)ヘンリー・A・キッシンジャー特別教授、アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)上級研究員。米外交政策の専門家。米国防長官の顧問、米国防総省や情報機関のコンサルタントとしても活躍。

経済的な強制力もしかり。中国が2025年10月に打ち出したレアアースの輸出管理措置が典型だ(筆者注:外国の企業は、中国産レアアース製品・技術の再輸出にあたり、中国政府による承認が必要になった)。これは中国の交渉力を高め、台湾をめぐる対立の火種となりうる。

中国の危険性が増している2つ目の理由は、同国の忍耐力が低下していることだ。ここ数年の動向を見れば、習近平国家主席が、台湾問題をめぐる現状変更の機会をもはや無期限に待ち続けるつもりはないことがわかる。

彼は、たぶん共産党総書記としての次期任期が満了する2032年までに進展を図りたいと考えているだろう(筆者注:共産党総書記としての現在の任期は22年10月〜27年10月、次期任期は27年10月〜32年10月)。

強制力と戦略的切迫感――これは実に危険な組み合わせだ。

――国力が頂点に達して下降しつつある国が、危険な行動に出る理由は?

主因は、目標達成のための時間が尽きつつあるという懸念だ。もし今後、より有利な立場に立てるのなら、待つことが最善の戦略だ。しかし、国力がピークを過ぎた、あるいは、過ぎようとしている国は、まだ可能なうちに利益を確保すべく、あえてリスクを冒そうとする動機が高まる。

これは現状変更を志向する国家(リビジョニスト)が危険な賭けに出る際の典型的なパターンだ。好例が、第一次世界大戦前のドイツである。

ドイツは1871年の統一(によるドイツ帝国の誕生)以来、経済的・軍事的に台頭したが、周辺諸国の反発を買い、将来的に目標達成が困難になるのではないかと懸念した。

(取材・文=肥田美佐子 写真提供=AEI(ブランズ氏)、代表撮影/ロイター/アフロ(画像1)、時事(画像2))