ウクライナに届くもの

このように中国の工具がロシアを武装させる一方で、中国はその技術をウクライナにも渡しています。

例えば、ドローンです。世界最大の小型民生ドローンメーカーは、深圳に本社を置く中国企業DJIです。戦争初期には、両軍とも安価な市販のDJIドローンを使って、敵の位置を偵察したり、小型爆弾を落としたりしていました。DJIはのちに両国への販売停止を表明しましたが、ほとんど意味はありませんでした。ドローンやその部品は、第三国を経由してウクライナに流れ続けたのです。ウクライナでつくられるドローンの小さなモーターや飛行制御装置、特殊な磁石は、多くが中国製です。両軍が同じ井戸の水を飲んでいるのです。

ドローンの群れ
写真=iStock.com/traffic_analyzer
※写真はイメージです

その裏にある計算

では、習近平は一体何を企んでいるのでしょうか。答えは、中国が「冷徹に計算している」ということです。この戦争は、多くの意味で中国にとって戦略的な贈り物となりました。非難を浴びずに戦争を長引けば長引くほど、恩恵を得ます。

中国がロシアから安くエネルギーを手に入れられるのは、ほかに買い手がいないからです。ロシアは中国に従属するしかありません。かつては対等な大国だったロシアが、いまや技術も外交も北京に頼る「格下のパートナー」になったのです。

完成兵器ではなく道具を売り、両側に供給しながら、表向きは手を汚さずにいられる。これこそ純粋な「死の商人」の論理です。商人はどちらが勝つかなど気にしません。取引が続くことだけを望むのです。そのあいだも北京は、世界に向けて自らを「平和の仲介者」として演じ続けています。

【図表】中国の「武器」輸出先と輸出額
※割合は、SIPRI TIV: Trend Indicator Value(金額ではなく、装備品の軍事的価値を示すSIPRI独自の指標)に基づく。出典=防衛相

同じやり方を「日本」に対してもやってくる

さて、こうした状況が日本にどんな影響を与えるのか。それは深刻な内容も含まれています。

中国がウクライナで練習している「やり方」は明日にでも日本とその隣国に向けられうる型(テンプレート)なのです。北京が何を学んでいるかをよく見てください。それは、「一発も撃たずに戦争を左右できる」ということです。必要なのは、工作機械、半導体、ドローンのモーター、そしてレアアース(希少金属)。そうした誰もが依存するものを握り、誰に渡し誰に渡さないかを決めることだけなのです。

もし、台湾や尖閣諸島をめぐる危機が起きれば、日本の工場も、自衛隊も、ハイテク経済も、いかに多くの重要部品が中国の手を通っているかを突然思い知らされるでしょう。ウクライナを苦しめているのと同じ依存が、私たちを縛る可能性があるのです。

中国はすでに、この力を武器として使うことを示しています。圧力をかけたいときに、レアアースやドローン部品の輸出を制限してきたのです。いまロシアとウクライナで試されていることが、本物のアジアの危機が始まる日には、日本、韓国、台湾に向けられるかもしれません。

つまり、ウクライナ戦争は、いつか私たちに使われるかもしれない道具の「実演」なのです。ひとごとのようにニュースを見ていてはいけません。