農家の人手不足と原料不足を解消
自社農園でみかんを育て始めても、本格的な収穫までには時間がかかる。その間にも、缶詰に適した原料は減り続けていく。そこで岡本食品は、自社栽培と並行して、新たな調達先を探し始めた。
出会ったのが、静岡県の遠州地域のみかん農家だった。農家が抱えていたのは、深刻な人手不足だ。特に収穫では、短期間に多くの人手が必要になる。大切に育てたみかんを全て収穫する余裕はなく、缶詰の原料として使えるみかんが園地で廃棄されるケースもあった。
そこで岡本食品は、社員を産地に派遣して収穫作業を手伝い、加工用のみかんを買い取る取り組みを始めた。缶詰メーカーは原料を確保でき、農家は人手不足を補うことができる。双方の課題を補い合う関係だ。
連携を深める中で、農家たちが岡本食品の工場を見学する機会も設けた。岡本さんは、その時の農家の様子が印象的だったと話す。
「農家さんたちは、工場の設備や製造工程よりもむしろ、加工前の原料みかんが入ったカゴに注目していました。『こんな見た目のみかんでもいいんだ』と驚いておられましたね」
生食用では商品になりにくい見た目でも、缶詰の原料としては十分に使える。加工用みかんに求められる基準を生産者が知ることで、これまで十分に活用されなかったみかんにも新たな価値が生まれる可能性がある。
生食用の規格外品を安価で仕入れてきた従来の調達から、自ら育て、産地とも協力して原料を確保する仕組みへ。岡本食品は国産みかん缶詰を未来につなぐため、新たな原料調達の形を築き始めている。
国産みかん缶詰を未来につなぐ理由
なぜ岡本さんは、そこまでして国産みかん缶詰を残そうとするのか。
「いくら海外から安い原料を輸入できるからといって、国産のみかんで作ることをやめてしまえば、いざ輸入がストップした時に困ります。食料自給率の低い日本で、国内の農産物を加工する技術や産業を残しておくことには、大きな意味があると思っています」
岡本食品の国産みかん缶詰は、スーパーの店頭で目にする機会はほとんどない。主な届け先のひとつは学校給食だ。他にも、冷凍デザートや、菓子やゼリーの原料として使われて消費者のもとへ届く。私たちは「最後にみかんの缶詰を買ったのはいつか」を思い出せなくても、知らないうちに岡本食品のみかんを口にしているのかもしれない。
自らみかんを育て、産地と手を携えて原料を確保する。その挑戦は、ひとつの缶詰を残すだけではない。日本で育てた農産物を日本で食品に加工し、次の世代へ届ける。その営みを未来につなぐ挑戦でもある。




