「もう自分たちでやるしかない」
これまで岡本食品はさまざまな工夫を重ねてきた。かつては家庭用の小さな缶詰も製造していたが、現在は学校給食や食品メーカーなどで使われる業務用の「1号缶」に生産を絞り、効率化を図っている。
銀行出身の岡本さんが2016年に社長に就任してからは、コスト管理も徹底した。どの産地の、どの品種、どのサイズのみかんを何トン投入し、どれだけの製品ができたのか。日々のデータを蓄積し、「このみかんなら、いくらまで仕入れ価格を払えるか」を緻密に計算している。
それでも、缶詰に適した原料が減っていくという構造的な問題は解決できない。
「契約栽培を頼むという選択肢がない以上、もう自分たちでやるしかないと思いました」
岡本さんがたどり着いた答えは、自らみかんを育てることだった。加工用なら、見た目に問題があっても、中身が良ければ問題ない。生食用ほど栽培に手間をかけず、低コストで大規模に栽培できる可能性もある。
とはいえ、大規模な農園を始めるには、まとまった農地が必要だ。候補地を探す中で、愛知県半田市が岡本食品の計画に関心を示した。同市も遊休農地の増加という課題を抱えており、土地所有者への働きかけにも協力。その結果、約13ヘクタールのまとまった農地を借りることができた。
こうして2021年、缶詰メーカー自らが原料となるみかんを育てる挑戦が始まった。
「缶詰に向くみかん」を一から育てる
もっとも、農園を開けばすぐに原料不足が解決するわけではない。みかんは苗木を植えてから本格的に収穫できるまで、5~6年ほどかかるという。
岡本食品が選んだ品種は、神奈川県の小田原周辺などで栽培されている温州みかんの「大津4号」だ。約1万1000本の苗木を、トーアスの社員の協力も得ながら植えていった。
缶詰メーカーが農業に乗り出すという異例の挑戦。社内ではどのように受け止められたのか。
「みんな半信半疑だったと思います。『社長がまた何か言い始めた』という感じだったでしょうね。ただ、原料が足りなくなっていることは社員も分かっていましたから、自分たちで作るしかないという考え自体には、理解があったと思います」
実際に栽培を始めると、新たな課題も見えてきた。大津4号は甘みが強い一方、実をつける際に木への負担が大きく、豊作と不作を繰り返す「隔年結果」が起こりやすい。しかし、缶詰用のみかんは、生食用とは求められる条件が異なる。甘さだけでなく、果肉が硬く加工しやすいことや、毎年安定して多く収穫できることも重要だ。
そこで現在は、甘さでは大津4号に及ばないものの、木への負担が少なく、安定した収穫が期待できる別の品種も試験的に栽培している。
生食用の規格外品を仕入れるのではなく、最初から「缶詰に向くみかん」を育てる。岡本食品の挑戦は、みかんの価値を測る物差しそのものを変えようとしているのだ。


