「甘いみかんブーム」が缶詰業界の逆風に
しかし、安価な輸入品との競争を生き延びた岡本食品を、新たな問題が襲った。缶詰の原料に適したみかんが、手に入りにくくなったのだ。
そもそも、どんなみかんが缶詰に向いているのか。
みかんの缶詰に使われるのは、私たちが普段「みかん」と呼んでいる温州みかんだ。温州みかんには収穫・流通時期などによってさまざまな種類があり、一般的に中生や晩生は果肉が硬く、缶詰への加工に向いている。
缶詰工場では、丸いみかんの皮をむき、一房ずつに分け、酸性とアルカリ性の溶液を用いて薄皮を取り除いてからシロップに漬ける。このとき果肉が柔らかすぎると、割れたり、ばらばらになったりして商品にならないのだ。柔らかい果肉は生食には最高の口触りだが、缶詰では使いづらい。
農家は近年、消費者に好まれる「甘くてジューシーなみかん」を作るため、生食に適した品種や栽培方法を追求してきた。
なお、缶詰メーカーと契約して加工用のみかんを専門的に栽培する農家は、全国どこにもいないという。生食用として育てられたみかんのうち、見た目に問題があったり、糖度などの出荷基準に届かなかったりして市場に出せないものが、加工用として缶詰メーカーに販売されるのだ。
「つまり、私たちは生食用の規格外みかんを仕入れて、缶詰に加工してきました」
日本人が甘くてジューシーなみかんを求めるほど、缶詰に適した原料は減っていく。そんな状況が続いていた。
同じ一箱を作るのに、必要なみかんが約2倍に
甘くて柔らかいみかんが増えたことは、缶詰メーカーの生産効率に大きな影響を与えた。
業界団体では、みかん缶詰一箱を作るために必要な原料の量を長年にわたって記録している。それによると、1990年代では一箱を作るのに必要なみかんは約20キロだった。ところが近年は30キロ台後半、場合によっては40キロ近く必要になるという。
「同じ量のみかんを仕入れても、できる缶詰は昔の半分ほどです。原材料コストは2倍近くになり、生産量が減れば、一缶当たりの人件費などの負担も大きくなります」
そもそも、生食用として市場に出せなかった規格外みかんを安価で仕入れるという調達方法は、持続可能な仕組みとは言い難かった。
生食用みかんの取引価格は1キロあたり100円以上。一方、加工用は20~30円程度だという。これほどの価格差があれば、農家にとって、缶詰用のみかんを専門に栽培するメリットはない。さらに缶詰業界が必要とするみかんは、全国のみかんの生産量のわずか2.5%程度にすぎない。
「これまで私たちは、生食用として売れなかったみかんを安く仕入れることで成り立ってきました。でも、それでは農家さんに『缶詰用のみかんを作ってください』とはお願いできません」
甘くて柔らかいみかんが増え、加工に適した原料は減っていく。それでも生食用と加工用の価格差が大きいため、農家に加工用みかん専門の栽培を求めることは難しい。こうして岡本さんは、長年続いてきた原料調達の仕組みそのものを見直そうと考えた。



